限りなく無色透明。なぜ安倍晋三氏は長期政権を維持できたのか?

 

いずれにしても、モリ・カケ・サクラというのは、確かに政治家である安倍晋三、つまり帝王たちの背中を見て育ったが、帝王学は全く学ぶ機会のなかった悲運の人には手に余る問題であり、政治家としての限界を露呈していたと思います。無色の人であるだけに、権力と求心力が出てしまうと、周囲は忖度を拒めないという日本人特有の精神性の脆さのようなものも災いしました。

けれども、この3つの事件は歴史的には大きな問題ではないと思います。そうではなくて、この3事件がより安倍政権に関する「支持と不支持の分断」に燃料を投下してしまったということが大切です。イデオロギーの問題で、安倍氏を嫌っていた左派は、この3事件に過剰に憤激することで、益々安倍氏への嫌悪を深めていきました。

今となっては歴史的な検証が必要なことですが、反対派は安倍氏のことをカタカナ表記をして「アベ政治を許さない」などと大騒ぎするに至ったのでした。その「アベ政治」というのは、具体的に何なのかは批判している人にも、よく分からなかったのではないかと思います。

そこまで悪口を言われると、今度は敵味方の論理の中で、保守派と中道保守の世論には、あるいは政治家たちには益々安倍氏への求心力が生まれたのでした。ここが一番のポイントであり、安倍政権が成功したことのマジックがここにあります。

第二次政権の実績の中には、再三申し上げているように、相当にリベラルな内容が含まれています。

例えば、朴槿恵氏との日韓合意がそうです。右派的な観点からは、村山内閣の「アジア女性基金」で十分な補償をしたのに、その金はウヤムヤになったわけです。もっと言えば、日本の保守派は、韓国にビタ一文払いたくなかったはずです。にもかかわらず、オバマの勧めもあり、今回は公金を支出する格好での補償と合意になったわけです。本来的には、保守派は反対するはずですが、安倍氏は押し切ることに成功しました。

勿論、結果は悪かったわけですが、それは向こうの政治事情のためであって、この合意に関しては、日本側としては誠実に対応したのだと思います。これは一種のマジックであり、仮に日本側が中道左派政権であったら、それこそ自民党の保守派が騒いで潰れていたでしょう。

もう一つの大切な例が、譲位改元の問題です。上皇さまが退位の意向を示された際に、保守派は反対しました。天皇は崩御の瞬間まで在位すべきであり、新帝は長い喪中の闇の中で践祚から即位礼、大嘗祭といったプロセスを経て神性を獲得するというのは、譲れないというのです。また改元に関しては、発表と同時に施行すべきという意見も強かったわけです。

ですが、安倍政権は上皇さまの意を受けて、譲位への立法を行い、改元も5月1日の施行の1月前に公表するという措置を行いました。これも、仮に中道左派政権であれば、右派が反対して迷走したに違いありません。同じように、日米相互献花にしても、あるいは働き方改革にしても、保守世論から絶大な支持を獲得し、党内の保守系議員も黙らせる中で、落とし所へ落とすという結果になったわけです。

これはもう少し時間が経過してから、歴史の洗礼を受けないといけないと思いますが、とにかく、右派を押さえることで、中道政策が実行できたというマジックが、何度も何度も働いたのでした。そして、そのマジックは、不思議なことに「左派によるアベ政治嫌悪」という圧力があったことで、その反力を良い方向に使うという不思議な政治力学で、実現していったのでした。

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