限りなく無色透明。なぜ安倍晋三氏は長期政権を維持できたのか?

 

では、こうしたマジックは再現性があるのかというと、これは難しいと思います。原籍左派の政権が右派的な政策を採用すると、左派世論がついてきて、国がまとまるということは、あるかもしれませんが、その場合は往々にして「右に寄り過ぎる」危険性が出てきます。左派政権に右派への恐怖があれば、余計に左派のくせに右に寄せすぎて「国を誤る」という可能性です。

一方で、安倍氏でない他の保守系の政治家が、権力を固めることで中道あるいは中道左派政策を粛々と進めることができるのかというと、そこも難しいように思います。このマジック、つまり保守の絶大な信頼を勝ち得て、その信頼を中道政策に使うという手法は、安倍晋三という人でなくては実現できなかったのだろうし、こうした人はなかなか出てこないのではないかと思うのです。

それは、やはり知識人ではない無色の人であり、けれども晩成型であり、若い時は人生の方向性に迷っていたが、中年期以降は統治のスキルを必死になって学んだ、それでいて少年のような心を失わなかったというこの人ならではの成果であるように思うのです。

もう一つの問題は、反対派の凋落です。反対派は、「アベ政治を許さない」などと叫び続けることで、どんどん中間層の支持も失って行きました。ここには、絶望的な知恵のなさ、統治スキルの無能という問題が横たわっています。

安倍晋三という人は、勉強をサボった良家の坊ちゃんであり、大衆の困窮など理解しないだろう。だから中国や韓国などを敵視し、第二次大戦当時の不祥事を「なかったこと」にするという危険なイデオロギーのゲームで、大衆を扇動して多数を維持しているのだ、反対派はそんなイメージで捉えていたのだと思います。

そこには、安倍氏の統治スキルへの恐ろしいほどの過小評価と、同時に、庶民性というものへの極悪とも言えるほどの無理解と蔑視があったのでした。「いやいや、自分達は格差批判をしている」という反論が来るのでしょうが、本当に困窮層の現実を理解して、その問題に切り込んでいったのならば、そして世代間の不公平なども丁寧に拾っていったのならば、ここまでの低迷にはならなかったはずです。

全くの思考停止に陥って「アベ政治を許さない」などと言っているうちに、実は高齢既得権層の利害にズブズブになっており、同時に産業構造改革、とりわけ国としての生産性向上の問題には完全に守旧派として振る舞っていたわけです。勿論、日本の左派政党にはそうした傾向はあったにしても、安倍氏への世論の支持の理由を理解せず、また安倍政権が結果的に中道的な「落とし所」に判断を持っていっているのにも気づかずに、批判ばかりを単調に繰り返したわけです。

その結果として、安倍政権側としては巨大な敵失がグルグル回っている格好になりました。国政選挙において、連戦連勝となったのは、そのためだと思います。

勿論、この7年8ヶ月に及んだ第二次安倍政権時代、問題はなかったわけではありません。とにかく、「改革とは改革をやったフリをするための報告書作り」だというような「やったフリ改革」が横行したこと、規制緩和が結果的に外資主導で行われ国富の切り売りが進んだこと、巨大化した中国との向き合い方について、オバマ、トランプ、バイデンの3人の対応に翻弄され、流される一方であったことは、大変に悔やまれます。

アベノミクスも、後半になると「円安なので優秀な人材に国際標準の給料が払えない」という理由で、知的分野の空洞化が進むなど、弊害が大きくなっていました。また、この間の最大の問題は、エネルギーの多様化に実績が見られなかったことと、東芝のスキャンダルを救済できなかったことです。

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