幹細胞によるものや、幹細胞を培養する際に生じる上澄み液「幹細胞培養上清液」を利用するものなど、再生医療は日々進化していて、人間だけでなくペットの病気の改善にも期待が寄せられています。今回のメルマガ『しんコロメールマガジン「しゃべるねこを飼う男」』では、ボストン在住医学博士のしんコロさんが、読者からの質問をきっかけにペットのしおちゃんが悩まされているIBD(炎症性腸疾患)の治療の現状を紹介。幹細胞そのものによる治療の狙いを説明し、今後治療の幅がさらに広がることに期待を示しています。
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再生医療での幹細胞の培養上清の利用はアメリカでは行われていますか?
Question
(しおちゃんの)血液検査結果良くて良かったですね。質問は再生医療での幹細胞の培養上清の利用はアメリカでは行われていますか?猫への実績効果の報告などありますか?日本では上田実先生が報告上げているのをみましたが、アメリカでの評価お分かりになりますか?
しんコロさんからの回答
幹細胞による治療分野は多岐にわたりますが、しおちゃんが悩まされているIBD(炎症性腸疾患)に関しては培養上清よりも幹細胞そのものでの治療が犬や猫で実験的に行われています。
IBDによってダメージを受けた腸管上皮細胞や粘膜を治癒させて、腸管層のインテグリティ(完全性)を取り戻すことにより、バクテリアやカビなどの不適切な免疫細胞との接触を防ぐことが狙いです。
ちなみに、日本でも東京医科歯科大学が患者の腸から採取した細胞で幹細胞を含んだ「オルガノイド(人工的に培養した細胞が集まった小組織)」を潰瘍性大腸炎患者に自家移植するという治療がつい先週ニュースになっていました。
IBDは腸管の上皮や粘膜のダメージを取り除くことと、活性化した免疫反応を抑えることの2点が重要になってきます。幹細胞を用いたIBDの治療はこの前者をターゲットにした治療で、後者をターゲットにした免疫治療と合わせて今後IBDの治療の幅が広がることが期待されます。
これらのデータを元に、ペットへの治療法へも将来応用されることとなるでしょう。現時点でも日本でも幹細胞を用いた治療をしている獣医がちらほらとありますが、まだ実験的でデータや実績に信憑性がある段階にまで至っていないという印象です。
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