おっさん限定『リコリス・リコイル』部。3連休は最終話を肴に一人酒…リコリコが晩酌にうってつけな理由とは?

2022.09.23
by たいらひとし
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2022年夏のテレビアニメで、原作なしオリジナル作品でありながら一番人気の『リコリス・リコイル』が24日に最終回を迎える。主に若い世代から熱烈に支持されているこの作品だが、実は(私のように)くたびれた中年男の心に刺さる要素に溢れていることをご存じだろうか?この3連休の酒の肴は決まった。リコリコを全話鑑賞して、明日への活力と男の自信を取り戻そう。

中年を癒やし、笑わせ、励ます『リコリス・リコイル』

『リコリス・リコイル』は、アニプレックスを母体とするA-1Picturesが製作したオリジナル連続アニメで、制服を着た美少女たちが密命を帯びて悪を倒すガンアクションものだ。

アニメ情報サイトの放送前の期待作品ランキングでは、既存シリーズの続編や原作付き作品に埋もれて圏外だったが、放送開始直後のアンケートで一気に第3位に浮上して一大センセーションを巻き起こした。

本作のあらすじはこうだ。

平和で安全、綺麗な東京。日本人は規範意識が高くて、優しくて温厚。法治国家日本。首都東京には危険などない――そんな安全神話を国民に信じさせることを責務とする秘密組織「DA」は、女子高生の姿に擬態したエージェント「リコリス」を使って犯罪者やテロリストを密かに暗殺していた。

リコリス歴代最強と謳われる主人公・錦木千束(にしきぎちさと)は、至近距離から銃を撃たれても相手の動きを事前に察知し弾を避けられる特殊能力の持ち主。訳あって普段は「喫茶リコリコ」でアルバイトをしており、明るい性格で店の看板娘になっている。

そんなある日、もう一人の主人公、黒髪でクールな性格の井ノ上たきな(いのうえたきな)が命令違反からDAを“クビ”になり、左遷先の喫茶リコリコで千束とバディを組むことに。

事件は事故になるし、悲劇は美談になる――そんな建前や陰謀、組織の論理が渦巻く近未来の日本を舞台に、カタブツでコミュ障気味の「たきな」は、相棒の千束とのミッションや仲間との交流を通して人間らしさを取り戻していく……。

華麗なガンアクション、現実の娘よりも素直でかわいい主人公二人の軽妙かつ尊いやりとり、喫茶リコリコのまったりとした空気感など、本作には人生に疲れた我々おっさんを癒やし、笑わせ、叱咤激励する要素が詰まっている。

これを若いアニメファンに独占させる手はない。キャバクラに行って逆に女の子に気を使うくらいなら、家で酒を飲みながら『リコリス・リコイル』を見るほうが何倍も幸せになれるのだ。

おっさん世代にはメリットでしかない本作の“欠点”

この作品、企画段階では『シティーハンター』の美少女版ということだったようで、製作側の狙いが見事に当たった形となった。

しかし放送も終盤に入ると、作品の雰囲気はガラッと変わる。実は、主人公の千束は幼い頃から先天性心疾患を抱えており、特殊な人工心臓の移植によって組織に「生かされている」状態だった。その人工心臓に問題が発生し、ストーリーの鍵を握ることに……。

唐突なシリアス展開に戸惑うファンも中にはいたようで、いわゆる“アンチ”が発生してしまったのである。アクションコメディとして見ている分には、本作の荒唐無稽な部分はギャグとして許されていた。ところが作品全体のトーンが深刻になるにつれ、現実離れした展開に細かいツッコミが入るようになったのだ。

●女子高生の制服は日本で一番警戒されない姿、都会の迷彩服という設定(真っ昼間は逆に目立つのでは?)

●敵は実弾、千束は非殺傷弾。銃撃をすべてかわし常に無双する千束(は良いとして、猛スピードの日産GT-Rに轢かれてピンピンしてるのはなぜ?)

●「心臓が逃げる!!」と狂犬化していたたきな、直後の救出ヘリの中で千束と普通に会話(切り替え早すぎでは?)

●民間に被害が出たテロ事件が「アトラクションでしたー」でなかったことになる強引な展開(納得する市民アホでは?)

など、やや無理のある設定や展開に「ツッコミどころが多くて物語に入っていけない」などの声が出て、途中で離脱したファンもいたようだ。

もっとも、このような本作の“欠点”も、我々おっさん世代にとっては100%メリットでしかない。

仕事、子育て、親の介護……人は歳をとると様々な理由からアニメをリアタイ視聴できなくなる。いきおい休日に「全話一気鑑賞」となりがちだが、若い頃よりも記憶力や注意力が衰えているため、完走しても翌日にはストーリーはおろかキャラの名前すら出てこないこともザラだ。

シラフでもそうなのだから、アルコールが入った状態なら本作の細かい矛盾点など気になるはずもない。翌朝には「あの黒髪ロング、心臓が逃げるッ!の子……ええと井ノ上さんだっけ?普段はクールぶってるけど実はアツいし、千束のこと好きすぎだし、人相悪いときのほうが可愛いよなぁ」という漠然とした好印象だけが残ることになる。

ほどよい酔いがリコリコの弱点をすべて打ち消し、ガンアクションの快楽と千束×たきなのイチャラブな味わいを最大限に深めてくれるのだ。細かな考察をする根気を失って久しい我々おっさん世代にとって、まさにうってつけの酒の肴と言える。

荒削りな設定や荒唐無稽な展開も「逆に助かる」

アニメ情報サイト「Febri」では、『リコリス・リコイル』でテレビアニメ初監督を務めた足立慎吾氏が製作の裏話を赤裸々に語っている。

足立監督が参加した時点で、原案とリコリコにいるキャラクターだけは固まっており、あとの世界観と物語作りは足立監督の手に委ねられたという。

「制服を着た少女が学校にも行かず危険な任務をこなすのには、何か理由があるはず」ということから世界観を構築し、原案の暗い雰囲気から、5分に一度はクスリと笑えるような明るいイメージにアレンジしたとしている。

作品の表面的なイメージは明るいのに、ところどころ暗い部分があるのは、どうやら原案の名残のようだ。そして主人公の千束が非殺傷弾を使い、決して敵を殺さないのも足立監督の配慮によるものだった。

視聴者を戸惑わせた終盤怒濤の急展開にしても、もっと話数があれば解決できたのかもしれない。本作には当初から全13話の制約があったと言うが、一部ファンからは「26回で語るべき内容を無理矢理13回に詰め込んだ感アリアリ」など、荒削り気味なストーリーへの不満が聞かれるのも事実だ。

だがこれも裏を返せば、体力と集中力がめっきり衰え、徹夜など絶対に不可能となった我々おっさん世代的には、むしろ感謝ポイントと言える。

晩酌アニメ一気鑑賞は常に寝落ちの危険性をはらむ。2クール全26話の作品では、最終話に辿り着くよりもかなり前に気絶してしまう。翌朝目を覚ますと始業直前、もう職場のリモートラジオ体操が始まる時刻だ。いったい自分はアニメを第何話まで消化したのか、昨晩の記憶は完全に失われている。

そうして第1話へのタイムリープを幾度となく繰り返し、永遠に14話以降に到達することができないと嘆く中高年が多い中、コンパクトな1クール全13話構成は逆に助かる。2話に1本のペースでストロングゼロをあけても13話ならギリギリ耐えられる計算だ。

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