もはや限界超えか。ウクライナ難民急増に悲鳴上がるドイツの惨状

 

また、ウクライナ人は難民扱いではなく、すぐに就職活動もできれば、子どもたちは託児所や学校に通える。そして、庇護にかかる経費は難民用の予算ではなく、社会福祉費で賄われているというから、最初からほぼ正式な移民扱いだ。

その背景には、ドイツ政府がウクライナ人を労働力として歓迎している事情がある。というのも、ドイツにはすでに戦争前に15万人のウクライナ人が住んでおり、その3分の2が女性で、多くは病院や介護施設、あるいはプライベートの住み込みで介護士として働いていた。それに加えて、ドイツの居住許可は持っていないが、3ヶ月のルーティンで祖国との間を行き来している出稼ぎの人たちが25万人。言うまでもなく、介護は今も人手不足でパニック状態が続いているセクターなので、原因が何であれ、ウクライナ人が増えることは大歓迎なのだ。しかも、ウクライナの場合、男子は出国が禁止されているため、来る人たちはほとんどが女性と子供で、犯罪増加の心配もない。

ウクライナは貧しい国で、かねてよりドイツに移住したい人は多かった。それが今なら、ウクライナ人というだけで最低1年は滞在して働くことができ、さまざまな援助や社会保障も受けられ、さらに、将来もそのまま住めるかもしれないのだから、彼らにしてみてもチャンスだ。

ウクライナでの開戦以来、どれだけのウクライナ人がドイツに入ってきたかというと、独内務省によれば、10月17日の時点で100万8,935人が登録されている。15年、16年の大量流入時を優に超えているわけだ。

登録後、避難民は各州に振り分けられ、それぞれの自治体に委ねられる。ところが現在、多くの自治体が、キャパシティにおいても財政においてもすでにパンク状態で、未曾有の困難に陥っている。それなのに難民を担当する内務相(SPD)はその現実を無視。「2015年の時と違い、我々は準備ができている」と主張、自治体の訴えにまともに取り合ってこなかった。

ところが10月11日、さすがにお尻に火がついたと見え、内務相と州や市町村の首長が一堂に介し、「難民サミット」なるものが開催された。自治体が特に困っているのは宿舎の確保だ。多くの自治体では、ホテル、公民館、廃業した工場など、ありとあらゆる空き家屋を使って宿舎としているが、それでも足りない。困りあぐねて学校の体育館を接収し、衝立を立てて仮の宿舎にするところまで出てきて、市民が抗議し始めた。「子供たちの体育の授業を犠牲にする前に、早く収容施設を作れ!」

また、開戦当時、ウクライナ国民に対する同情心が絶大であったため、住まいに余裕のあった多くのドイツ人が主にウクライナの母子などに部屋を提供したが、半年以上が過ぎ、それもいろいろな意味で限界となっている。

国はこれまで300の不動産(6万4,000人分)を州や自治体に提供し、難民サミットでは、今後、それをさらに56ヶ所(4,000人分)増やすことが決まった。ただ、資金援助については、国はすでに20億ユーロも出しているからと拒否している(11月にもう一度協議とのこと)。つまり、自治体はお金も尽きている。

しかも、間の悪いことに、ドイツは現在、インフレ、エネルギーの急騰、倒産、解雇など、さまざまな深刻な問題が目白押しで、国民の間に先行きの不安が蔓延し始めている。公約であった40万戸の公営住宅建設計画も止まったきり。そんな中、避難民の住宅だけが優先的に整備されたりすれば、不満が膨れる恐れがある。10月19日にはその懸念を裏付けるかの如く、メクレンブルク=フォーポメルン州で、ウクライナ避難民の入居するはずだった集合住宅が放火で全焼するという事件が起こった。

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