もはや限界超えか。ウクライナ難民急増に悲鳴上がるドイツの惨状

 

ただ、現在、キエフなどでのインフラ攻撃が続いており、冬を目前に電気も水もガスもいつ止まるかもしれないとなると、避難民はさらに間違いなく増える。EU側とて、この状態で門戸を閉じることはできないだろう。

しかも、EUが警戒しなければならないのはウクライナからの避難民だけではない。実はここのところ、アフガニスタン、シリア、イラクなどからの中東難民も急増している。中東難民の中には、祖国では食べていけず、どうにかしてEUに入りたいという、いわゆる“難民資格を満たさない人々”が多く混ざっているため、できればEUの国境で篩にかけるべきだということは皆、わかっているが、それがうまくいかない。侵入者の方は、どうにかEUに滑り込めば、簡単に行方をくらますことができる。ドイツ政府は現在、オーストリア国境の監視を強めているが(中東難民の大半は、セルビア、ハンガリー、オーストリア経由でドイツに入ってくる)、国境には川があるわけでもなし、かなりザル状態。

現ドイツ政権には、前々から難民は全員受け入れよと主張している緑の党がいる。また、政権を担う社民党も難民にはいたって寛容で、今やそれを大声で主張することはないにせよ、しかし、現実主義に切り替える気もないらしく、ダンマリを決め込んでいる。

そして、肝心のドイツ国民はというと、難民を助け、ウクライナを助け、さらにはマーシャルプランで彼らの復興も助けようというロマンチックな人道派(これが結構多い)と、「もう難民は十分」と思い始めている人々にはっきりと分かれ始めた。ただ、後者は、反人道と叩かれる恐れがあるので、大きな声にはならない。先日、社会福祉予算で優遇されているウクライナ避難民を、「社会福祉ツーリスト」と揶揄したCDU(キリスト教民主同盟)のメルツ党首が激しい非難を浴び、謝罪したという一幕もあった。

思えば戦後のマーシャルプランは西ヨーロッパの復興を助けたが、その結果、世界は東西両陣営に分かれた。21世紀のマーシャルプランには、ドイツ国内を二分する懸念がつきまとう。

プロフィール:川口 マーン 惠美
作家。日本大学芸術学部音楽学科卒業。ドイツのシュトゥットガルト国立音楽大学大学院ピアノ科修了。ドイツ在住。1990年、『フセイン独裁下のイラクで暮らして』(草思社)を上梓、その鋭い批判精神が高く評価される。ベストセラーになった『住んでみたドイツ 8勝2敗で日本の勝ち』、『住んでみたヨーロッパ9勝1敗で日本の勝ち』(ともに講談社+α新書)をはじめ主な著書に『ドイツの脱原発がよくわかる本』(草思社)、『復興の日本人論』(グッドブックス)、『そして、ドイツは理想を見失った』(角川新書)、『メルケル 仮面の裏側』(PHP新書)など著書多数。新著に『無邪気な日本人よ、白昼夢から目覚めよ』 (ワック)がある。

image by : Achim Wagner / Shutterstock.com

川口 マーン 惠美

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