なぜ、日本人は「ノーネクタイ」という“暴挙”を定着させてしまったのか

Men's casual outfits on wooden table over wall grunge background
 

3.テーラードジャケットはフォーマル

スーツとは、上下同じ素材で作られたものを指す。紳士服ではスーツといえば、テーラードスーツだが、婦人服ではブラウススーツ、ニットスーツもある。上下を同じ素材で揃えることは、異なる素材よりドレスアップに見える。

紳士服のスーツは一般的に布帛(織物)の生地で作られるが、最近ジャージー素材で作られたテーラードスーツ「パジャマスーツ」が話題になった。これは、素材をカジュアルなものに変えたことで、スーツそのものをドレスダウンしたものだ。

リモートワークが増え、「楽に着られるジャージ素材のスーツがヒットした」と言われているが、リモートワークでは上半身しか映らないのだから、本来ならジャケットを着れば良いだけの話だ。スーツを買い換えるのではなく、ジャケットを買えばいい。しかし、多くのビジネスマンはビジネス用のスーツしか持っていないし、カジュアルなジャケットをどのように買っていいのか分からない。パジャマスーツとして販売したことで、安心してドレスダウンしたジャケットを購入できたのである。

パジャマスーツを経験した人は、次第に多様な素材のジャケットも着用できるようになるだろう。そこで初めて「ジャケット+パンツ」のビジネスカジュアルが定着するかもしれない。

そもそも、世界的な常識としては、テーラードジャケットを着用すれば、ほとんどの場所に入ることができる。つまり、実質的にはテーラードジャケットがォーマルウェアなのだ。

4.ドレスアップのデニム

和装業界では「デニムきもの」がヒットしている。きものといえば「高価で着にくく手入れが大変」というイメージがあるが、デニムなら洗えるし、気軽に着ることができる。

きものは民族衣装であり、洋装の世界ではフォーマルウェアとして扱われる。浴衣は、きものの世界では正式な場では着られない普段着だが、海外に行けばオペラ座に浴衣で行っても失礼ではない。民族衣装だからだ(でも、日本人同士で顰蹙を買うだろうが)。

そう考えると、「デニムきもの」というアイテムは非常に面白い。それを洋服の分野で再現するとどうなるのだろう。

例えば、デニムのタキシードを作る。もちろん、デニムも超長綿の糸を使ったり、シルケット加工(苛性ソーダに浸して光沢を出す)するなどして、艶のあるきれいな表面にするのが望ましい。しかし、通常のデニムでも、例えば毛焼きして、カレンダー加工(ロールによるつや出し)するだけでもかなりフォーマル感は出るはずだ。あるいは、生地の組織を綾織りではなく、サテンにするという方法もある。白いヨコ糸が見えなくなり、より無地に近づき、光沢も出るのでドレスアップした印象になるのだ。

デニムパンツもスラックス仕立てにして、サテンテープを側章に付ければ本格的だ。

同様に、デニムで普通のテーラードスーツに仕立てても良い。この場合、デニムの裏側にプリントをしたり、縫い代のパイピング始末を配色するなどの装飾があると、カジュアル過ぎず、ドレスアップした印象を与えることができる。

このように、ドレスアップとドレスダウンという発想に立つと、様々な新商品の企画が浮かんでくる。メンズファッションの活性化には、フォーマルかカジュアルかの二択ではなく、多様な選択肢を用意することが求められている。

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