ゼレンスキーを待つ地獄。ロシアは本当に不利な状況に置かれているのか?

 

二つ目は【ロシア側の物資の備蓄とウクライナ側の備蓄量に著しい差があるという現実】です。

ロシア“不利”が伝えられ、英国の情報機関によると、「ロシアの軍事的な備蓄は来年早々に底をつき、戦争継続能力に著しい困難をきたす」という分析もある半面、アメリカの軍事筋の分析では「ロシアはまだウクライナに比べて10倍以上の数の砲弾やミサイルを温存していて、次のレベルの戦闘に対して温存できている」という“10対1”という比率に触れる内容もあり、これは読み切れないと言わざるを得ません。

ただ、数か国の情報筋によると「ロシア軍はヘルソン州撤退時や東部での対ウクライナ軍との戦闘に用いているものは、最新鋭のものではなく、非常に高性能な兵器についてはまだ温存していて、十分に戦争の継続能力はある」という見方が強いようです。

撤退については、先述の通り、確かにロシア軍にとっては痛手であったようですが(イメージ戦略上も、軍事的な意味合いでも)、ロシア軍側は肝心の補給線が途切れておらず、今回の撤退もその補給線との遮断を避けるための苦肉の策であったと分析されています。

ロシアが実質支配するクリミア半島とロシアを繋ぐ補給のための回廊(コリドー)の“質”という観点からは、ドニエプル川西岸からの撤退はその質を落とすことになったようですが、まだクリミア半島までロシアから直接に物資や人員を補給することが出来る状況には変わらないようです。

それは2014年以降、ロシアが実効支配し、先日、強引にロシアに編入したルガンスク州とドネツク州も同じ状況です。

私たちが日常的に目にする報道では、ロシアによるドンバス地方などの編入は、現在、ウクライナ軍による反転攻勢によって危うい状況になっており、ウクライナ軍によって“解放”された集落ではウクライナを歓迎しているという情報が伝えられていますが、残念ながら、地元市民は必ずしもウクライナを支持していません。

その理由は2014年以降、継続的にウクライナによってこの地域に住むロシア系住民は迫害され続けていることと、ウクライナが失地回復した後も、物資の供給は、実際にはウクライナではなく、ロシアから行われているため、住民感情としてはまだロシア寄りであると思われます。ゆえに、ウクライナ軍がこの地で完全勝利を収めることはかなり困難でしょう。

「物資さえ豊富にあれば…」との思いからか、レズ二コフ国防相も欧米諸国に必要な物資や軍備の迅速な供給を訴えかけていますが、アメリカを除けば、支援のスピードも量も期待には沿えていません。

その一因で、かつ結構重篤なのは、欧州における仲間割れです。先ほども触れましたが、フランスとドイツの間の決定的なsplitはもはや修復不可能と言われており、その対立が“支援合戦”ではなく“支援の遅延”に繋がってしまっています。

加えてEU内での加盟国間の意思統一の乱れが支援を遅延させています。例えば、ロシアへの依存度も高く、またこれまでにも対ロシンパシーが強いハンガリー・ブルガリアなどの東欧諸国の意見とフランスやドイツなどの西欧の意見の食い違いはすでに克服不可能とされており、EUとしてのウクライナ支援は内容に全体的な支持を得られない状況が続いています。

ポーランドについては、NATOからの軍事支援や物資支援の補給路の窓口になっていることと、アメリカから導入された最新鋭の防空システムの存在のおかげで、NATOによる対ウクライナ支援には前向きと思われますが、それでもウクライナから流入してくる避難民の国内での扱いに限界が感じられるようになり、このpro-Ukraineの姿勢もいつまでも続くか不透明です。

このような内部の争いは各国に対するウクライナへの支援にムラを作ることにあり、ウクライナが反転攻勢を行うにあたり必要な物資やサポートが届かないという事態を招き始めています。

この記事の著者・島田久仁彦さんのメルマガ

初月無料で読む

 

print
いま読まれてます

  • ゼレンスキーを待つ地獄。ロシアは本当に不利な状況に置かれているのか?
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け