ゼレンスキーを待つ地獄。ロシアは本当に不利な状況に置かれているのか?

 

四つ目は【プーチン大統領と政府・ロシア軍の見立てでは、ウクライナでの戦闘ではさほど負けていないと認識されていること】です。

私たちがメディアを通じて得ている情報と比べると混乱されるかもしれませんが、軍事専門家および戦略家の見立てでもそのような分析がなされています。

南部ヘルソン州の州都ヘルソン(ドニエプル川西岸)からの撤退はイメージ的には大きな痛手だと捉えられているようですが、ウクライナ軍側にも相当な犠牲が生じたようで、決して「ウクライナ軍による勝利」ともろ手を挙げて喜ぶことが出来る状況ではないようです。

今後、反転攻勢を強めている東部ドンバス地方(ドネツク州・ルガンスク州)における戦闘は、ウクライナ側にとって南部以上の厳しさを増すという予想がされており、それもウクライナ軍による作戦の躍進といった結論を出せない理由の一つになっています。

住民は必ずしもウクライナを歓迎していない。とはいえ、ロシアにも“戦争に巻き込まれた”との思いもあり、どちらかというとロシア寄りと言われていますが、ロシアとして暮らしていくのはまだ先になりそうです。

そして、モスクワの見立てを支えているのは、先ほども触れた軍事戦略の第2段階目の進捗が思いのほか、スムーズに進んでいるという認識です。

インフラ施設への攻撃に対する報復として、ウクライナが旧ソ連製の無人ドローン兵器を用いたロシア空軍基地への攻撃を行うという反撃があり、様々な憶測を呼ぶことになりましたが、報じられているほどの被害は出ていないとのことで、プーチン大統領とロシアにとってはさらにウクライナへの攻撃を継続するよい口実が生まれたと思われています。

またこのウクライナによるロシア攻撃は、以前よりNATOにも仄めかされていたようですが、攻撃に際し、事前の連絡がどこにも入っていなかったとのことで、それがNATO各国のウクライナへの姿勢に影響を及ぼしてきています。

アメリカは一応、数日中にパトリオットミサイルをウクライナに提供する決定をしたと言われていますが、ブリンケン国務長官やオースティン国防長官は「アメリカは報告を受けていないし、ましてやロシアを攻撃できる装備を提供していない」とアメリカの関与を否定し、ウクライナから距離を取っています。

また、このパトリオットミサイルの提供が、プーチン大統領とロシアの核使用に向けたレッドラインを超えかねないことも分かりつつ、「どこまでプッシュできるか」を測る思惑も含むようです。

とはいえ、すでに米ロ間で行われている対話、特にエンドゲームの内容の進捗状況によっては、ロシアがあからさまに嫌がるパトリオットミサイルのウクライナへの配備は、対話による解決の可能性をなくす恐れがあるばかりか、一度は危険性が下がったと思われた“ロシアによる核兵器使用”の可能性を高めることになりかねません。

核のカードをちらつかせながらも、国内で核使用を強烈に支持する強硬派の意見を巧みに抑えてきたプーチン大統領も、パトリオットミサイルがウクライナに配備されたら、ロシアの核使用ドクトリンに沿った対応を取らざるを得ない状況に追い込まれるでしょう。自らの地位と権力基盤の維持のために。

そして、未確認情報ではありますが、“不利“といわれているロシア軍は、ベラルーシと共に、ウクライナを囲い込む形で54万人の部隊と最新鋭のミサイルや重装備先頭車両の配備を済ませており、プーチン大統領からの命令が下れば、一斉攻撃に打って出る可能性が指摘されています。

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