中国、ロシア、インドを主要メンバーとする上海協力機構(SCO)が、新たな加盟国や対話パートナー国を迎える動きを見せています。米国との対立を抱える中国にとってSCOが大きな役割を果たすと指摘してきた拓殖大学の富坂聰教授は、今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』で、アメリカ式世界戦略と中国式の違いを解説。中国が主導し和解の動きが続く中東と、台湾海峡を始めアメリカに煽られきな臭いムードに覆われる東アジアの状況の違いを伝えています。
きな臭い空気に包まれる東アジアと和解の季節へと向かう中東の差
ゴールデンウイーク中の5月5日、上海協力機構(SCO)外相会議がインド南部のゴア州ベノーリムで開催された。シンガポールのテレビ『CNA』はインドとパキスタンの確執に焦点を当ててこのニュースを大きく報じたが、現地のレポーターは中ロの狙いをこう解説する。
「今回の外相会議は7月に予定されるSCO首脳会議の道を開くためのものですが、収穫はありました。クウェート、UAE、モルディブ、ミャンマーが対話パートナー国として加わると発表されたからです。イランとベラルーシが正式加盟しようとするなかでの新たな動きです。SCOはこの地域への西側の影響力に対抗する目的があるとされています。ですから、この枠組み自体が拡大することが重要なのです」
このメルマガを読んでくれている読者は既知のことだが、中国がアメリカと向き合うためにSCOが大きな役割を果たすという指摘は何度もしてきた。もちろん主要メンバーの中ロ印の思惑はばらばらで同床異夢の感は否めないのだが、小さな追い風が吹きつつある。それは「反米」とは違う「嫌米」、「警米」といった空気が少しずつ世界に広がり始めたことだ。
アメリカの世界戦略の要は、同盟と非同盟を分け、自陣営に属せば安全や経済的メリットを享受でき、逆に敵対すれば徹底的に制裁を科すという飴と鞭だ。
だが、中国との対立を深めるなかで、このシステムがおかしな回転を始めている。同盟国・パートナー国が中国との間にもつ経済的な深い結びつきを無理に断ち切らせ、場合によっては対立の最前線に立たせようとするような場面が目立っているからだ。
今年4月末から5月上旬にかけて、韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領とフィリピンのフェルディナンド・エドラリン・マルコス大統領が相次いで訪米したのは典型的だ。両国のメディアには「中国への配慮」がキーワードのように踊った。
韓国の朴振(パク・ジン)外交部長官は「ある国を阻害するための訪米ではない」(KBSテレビ)と説明。フィリピンのマルコス大統領は今年2月、米軍が一時的に駐留できる拠点を従来の5カ所から9カ所に増やしたことについて「(中国への)攻撃的な行為を意図したものではない」との弁明を繰り返した。
アメリカの同盟国が強くワシントンに引き寄せられるなかで、いずれも苦しいバランス感覚を発揮しなければならない状況に追い込まれていたのだ。
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