「軍産複合体にもっとカネを」と主張するノーベル経済学者クルーグマンの無理筋

 

クルーグマンがこねる「ひねくれ者の理屈」

私はそもそも、クルーグマンという人を好きではない。というか、経済学者としても経済・政治の評論者としても信用していない(添付資料=本誌No.812再録を参照)。この人の政治的スタンスは、民主党の中道やや左寄り辺りなのだろうが、左派そのものや急進左派と同一視されることを極度に嫌う。そのため、極左と極右は左右の対極にいるようだが実は馬蹄形に先が窄(すぼ)んで接近しているのであり、自分はそのどちらともハッキリと一線を画していると強調したがる傾向が強い。

今回のコラムでも、題名は「軍産複合体」と打っておきながら、前半の半分以上は「左右2分論」で政策を論じることの無意味さをあれこれと語り、その後に挙げた1つの例題として軍産複合体の評価に触れている。こういう持って回ったひねくれ者のような文体がまた彼の特徴で、それは文章術の類型としては「想像力の水平展開」に属するのではあるけれども、その活用は余り上手ではなく、都合のいい事実やデータだけを横並びに挙げて牽強付会に陥る場合が少なくない。

さて、このテーマに関してクルーグマンは要旨このように言う。

▼ウクライナやイスラエルを支援するための軍事予算は莫大に膨らんでいて、それは「死の商人」が我々を駆り立てているからだろうという議論が左派から持ち出されている。

▼しかし、アイゼンハワー大統領が「軍産複合体」の危険について警告を発したのは1961年のことであり、その時代と比べれば今日の軍事支出の経済全体に対する比重は遥かに小さい。またペンタゴンの国家予算全体に占める大きさはそれ以上に劇的に削減されている。

▼もちろんペンタゴンにもまだ無駄遣いがあるが、昨今の事態に際して、少なくとも今現在程度、ないし多分それを上回る負担であっても、わが国は耐えられる。

▼是非皆さん、米国がどれほどまでの軍事支出をすべきなのかについて真剣な議論をしようではないか。とはいえ、60年前の軍産複合体についての言い古された言葉を蒸し返すことはこの議論に役に立たない……。

ハートゥングが展開する真正面からの批判

これに対してハートゥングが指摘する問題点の要旨。

第1。確かにアイゼンハワーの時代に比べて米国のGDPは今日までに6倍になっているのに対して、軍事予算は2倍にしかなっていない。しかし、GDPが6倍になったからと言って軍事費も6倍にしなければならない理由はない。軍事支出の多寡は、我が国が直面する安全保障上の危険に対してどれほどが必要かによって決定されるべきものであって、経済規模との比較で恣意的に決めらることなどあり得ない。

第2。ペンタゴンの支出を測る最良の方法は、よろしいですか、我々が実際にペンタゴンにいくら支出しているかを見ることである。我が国の現在の軍事予算はアイゼンハワー時代に比べて(インフレ調整済みで)2倍以上である。そしてもしこの傾向が続くなら、その額は一両年中に1兆ドルかそれ以上に達する。クルーグマンにとってはその額は制御可能と映るのだろうが、ほとんどの納税者はそうは思わないだろう。

第3。クルーグマンが、ガザやウクライナの戦争への米国の関与は兵器メーカーの命令によるものではないと指摘しているのは正しい。しかし大手の軍需契約者らはこれらの戦争で利益を得ている。

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