ビッグモーターやダイハツなど、名前を知られた企業による「反社」も驚くような法令違反が明るみに出た2023年。日本企業の質の低下を感じている人も多いのではないでしょうか。ダイハツの親会社のトヨタが日本を代表する企業になっていることが「日本の不幸」だと厳しく批判するのは、辛口評論家として知られる佐高信さん。今回のメルマガ『佐高信の筆刀両断』では、トヨタとは対照的に広告競争には加わらず、顧客のための品質向上を重視したブリヂストン創業者・石橋正二郎氏の方針を「経営の原点を示す言葉」として紹介しています。
経営の原点示した石橋正二郎
『ぐ~す~月刊とくし丸』の編集長、住友達也を通じて、同じように同誌に連載している小林照幸から、『琉球新報』のコラムに私の一文が引かれている、と教えられた。
ブリヂストンの創業者、石橋正二郎が、関東大震災に乗じて地下足袋の粗悪品を乱造する会社を特許権侵害で訴えたという話である。
「われわれは一企業の私利私欲のため係争しているのではない。当社の地下足袋は労働者階級の履物であり、自信をもって品質優秀のものをつくっている」という石橋の言葉を引きながら、コラム子は「今や人々の足と言えば車となるが、ダイハツ工業は大衆の不利益を考えなかったか。安全性試験など品質不正で全工場が停止した」と指摘している。
しかし、ダイハツ以上に親会社のトヨタの責任が問われなければならないだろう。トヨタが日本を代表する企業であるところに日本の不幸がある。
城山三郎や内橋克人など、日本の企業をよく知る私の先輩たちはトヨタを相手にしなかった。批判しても、まったく馬耳東風だからである。トヨタを豊田家のものと思っている現会長の豊田章男など、豊田藩の馬鹿殿様でしかない。
城山より少し上の伝記作家、小島直記が『創業者・石橋正二郎』(新潮文庫)を書いている。私の一文は、その解説を要約したもので、私が「紹介していた」と書かれると、いささかならず面映ゆい。
働く者重視の石橋の考え方は、ブリヂストンの東京工場を見学したソビエト(現ロシア)の視察団を驚かせ、その福利厚生施設の立派さに目を見張った彼らは、「ミスター・イシバシは社会主義者か。もしこれがソ連なら勲章ものだ」と讃嘆した。
「勤労階級」のために、「大衆」のためにという石橋の考え方は、次のような広告競争反対論につながる。
「私は、商略本位と広告競争には断然反対であった。無益な広告をして需要者の購買心をそそり、値段を高くして売りつけるのはなんとしても邪道だからである。
私は堅い信念にもとづいて、広告戦に加わらない方針を堅持した。そのかわり、実質的に品物の改善に意を注いだ。すなわち値が安くて良い品を売って、需要者の真の利益をはかるのが永遠の策であるという信念で戦った。
したがって広告費となすべきものはこれを品質の改良に、利益の大部分もこれまた改善という具合にしたから、心ある需要者から見れば、値段が1,2割も安い上に品質は最良である結果となって、ますます信用を高めることになっていった」
まさに経営の原点を示す言葉だろう。倉敷レーヨン(クラレ)の大原総一郎にも同じ精神が見られるが、それとまったく対照的なのがトヨタや松下(現パナソニック)である。特に批判を受け付けずに「トヨタイムズ」などと言っているトヨタは論外だ。
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