本人は冷静な反応。プーチンを「狂った野郎」呼びしたのは誰だ?

Hangzhou,,China,-,Sept.,4.,2016,-,Chinese,President,Xi
 

ロシアによるウクライナ侵攻から丸2年が経過し、国内外で多くのメディアがこの戦争の現状を改めて伝えました。中には、中国が「漁夫の利を得た」という見方を示すものもあったようですが、実際はどうなのでしょうか。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』で、多くの中国関連書を執筆している拓殖大学の富坂聰教授は、「ロシアが勝利すれば中国の台湾侵攻を助長する」との見方については「子供っぽい」と一蹴。この戦争で中国が得た教訓と、かつてないほど深まった中ロ関係について解説しています。

3年目に突入したロシア・ウクライナ戦争、中国が「漁夫の利を得た」という指摘は的を射ているのか

「狂った野郎(crazy SOB)」──。国際政治の舞台で他国のトップをこれほど悪しざまに罵るのは北朝鮮の指導層だけかと思っていたら、そうでもないらしい。アメリカのジョー・バイデン大統領だ。

発言が飛び出したのは選挙資金集めのイベントでのこと。「人類にとって最後の存亡の危機は気候(変動)だ」と強調する流れのなかで「プーチンのような狂った野郎がいて、核戦争の懸念は常にあるが」と前置きしたのだ。気候変動問題の大切さを語るためのおまけの発言ともとれるが、それにしても刺激的だ。

今月14日、ウラジミール・プーチンはロシア国営テレビのインタビューで「バイデン大統領とトランプ前大統領のどちらがロシアに望ましい大統領か」と問われ、「バイデン氏だ」と答えたばかり。そのプーチンに冷や水を浴びせかけたのだから、ロシアの反応に注目が集まった。

しかしプーチンはこれを冷静に受け止めた。国営テレビに出演し〈「われわれは(アメリカの)大統領が誰であれ協力する用意がある」とした上で、笑みを浮かべながら、「ロシアにとり、バイデン氏の方が好ましい大統領だと確信している。今回の彼の発言から判断すると、私は断然正しい」と述べた〉(ロイター通信2月23日)のである。

先週も触れたが、ロシアに「トランプ待望論がある」との見方は西側メディアに定着している。ゆえにプーチン発言はその裏をかいたものなのか。それとも「誰が大統領になってもロシア弱体化の試みをアメリカが放棄するわけではない」という意味なのか、憶測を呼んだ。

いずれにせよドナルド・トランプかバイデンかという問いにはあまり意味がない。アメリカの、どの利益を代表して他国と向き合うのかの違いであり、中国やロシアが利益を拡大しようとすれば必ずどこかでアメリカの利益とはぶつからざるを得ないからだ。

個人的な関係はその衝突を解消してくれるわけではなく、別の形になるだけのことだ。トランプは「習近平を尊敬している」と言いながら中国製品に高い関税を課し、人権問題では「無関心」と批判されながらも政権の後半にはウイグル問題で中国に強く干渉した。同じようにプーチンを高く評価しながらも、ノルドストリームを激しく攻撃し、欧州のロシアへのエネルギー依存を放棄させようと圧力をかけ続けた。

つまり中ロにとってはどちらが大統領になろうと、扱いにくさに多少の違いが生じるだけで、一長一短なのだ。ただウクライナとヨーロッパにとってトランプの再登板は、やはり悪夢かもしれない。明らかにウクライナ支援に消極的だからだ。

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