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国民のほとんどが知らない「機能性表示食品」の正体

「機能性」――という言葉からして既に官僚臭くて、国民にはすぐに意味が伝わりにくいが、要するに、体調を改善したり健康を増進したりする上で「効果・効能がある」ということである。従って「機能性表示食品」とは、そういう効果・効能があることを表示して販売することを許される食品である。

ここでまず、概念を整理しておこう。

「食品」には(1)「一般食品」と(2)「保健機能食品」とがある〔図1〕。

(1)は機能性=効果・効能を表示することができないが「栄養補助食品、健康補助食品、栄養調整食品」などを謳うことができる。

(2)は機能性=効果・効能を表示することができ、その下に、

(2-1)特定保健用食品(トクホ)
(2-2)栄養機能食品
(2-3)機能性表示食品

――の3種がある。

(2-1)のトクホは、例えば「コレステロールの吸収を抑える」といった効果・効能についての科学的根拠を1件ずつ国が審査し消費者庁が許可したもの。1991年からこの制度が始まった。

(2-2)栄養機能食品は、各種のビタミンやミネラルなど既に広く科学的根拠が確認されている成分を錠剤化するなどしたもので、「亜鉛」「カルシウム」「ビタミンA」等々として販売されている。一定の基準を満たしていれば特に届出などは必要なく、機能性を表示することができ、2001年から導入された。しかし、この「栄養機能食品」と、上述(1)の中の「栄養補助食品、健康補助食品、栄養調整食品」の表示とを区別して理解できる消費者は皆無であるに違いなく、この区分け自体が官僚的自己満足の表れでしかない。

それに対して(2-3)機能性表示食品とは、一応「科学的根拠に基づいた機能性」を満たしたものとして表示してよろしいということになっているものの、(2-1)トクホのように国が責任をもって審査し許可する訳ではなく、また(2-2)栄養機能食品のように科学的根拠が自明なものでもなく、その科学的根拠を主張するのはそれを販売しようとしている当の事業者自身だとされている。

7,000近い商品が世に氾濫する「機能性表示食品」

もちろん、一応はあれこれの評価基準を列記しているものの、トクホのように面倒なことを言わずに、事業者が書類上でそれなりにきちんとした申請を出せばどんどん認めましょうというのが根本趣旨。当然、審査が厳しく時間もかかるトクホよりも届出だけで済む「機能性表示食品」として売り出そうとする業者が増えるのは当然で、たちまちのうちにトクホの許可件数を凌駕し、すでに7,000件近い商品が世に氾濫している。

国民の健康の根幹に関わるこのような大切な領域で、なぜこのようないい加減な基準の溶解が行われたのか。

それはまさに、第2次安倍政権がアベノミクスの一環として断行した「規制緩和による経済成長」という新自由主義まがいの過(あやま)てる政策の目玉の1つがこれだったからであり、実際、安倍は、2013年6月の「成長戦略第3弾・規制改革実施計画」のスピーチで「トクホの認定を受けなければ効果を記載できないのでは金も時間もかかり、中小企業などのチャンスが閉ざされる」と宣言したのだった。

それに基づき13年12月、消費者庁長官の下に「食品の新たな機能性表示に関する検討会」が設けられ、座長に松澤佑次=大阪大学名誉教授/阪大病院院長/住友病院院長(当時)/同院名誉院長(現在)が就いた。

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