小林製薬「紅麹」事件も安倍政権の悪しき遺産。カネだけでなく国民の命も奪うアベノミクスの亡霊

 

「メタボの罠」を仕掛けた松澤が製薬会社から得た8億3,800万円

さて、森下の阪大における大先輩である松澤佑次は、ウエスト周囲径の基準を作った日本肥満学会と、コレステロールの基準を定めている日本動脈硬化学会と、両方の理事長を長年にわたって務めた。その彼が提唱したのが、日本版「メタボリック・シンドローム」の基準である〔図2〕。

第1に、ウエスト周囲径が男性85センチ以上、女性90センチ以上だと内臓脂肪が100平方センチ以上を抱える「内臓脂肪型肥満」の疑いがあると判定される。

第2に、さらに次のうち2つに該当すればメタボ患者、1つであればその予備軍と判定される。

  1. 脂質(中性脂肪150以上、and/or、HDLコレステロールが40未満〔いずれもmg/dl〕
  2. 血圧(最大130以上、and/or、最小85以上〔mm/Hg〕)
  3. 血糖(110以上〔mg/dl〕)

これで行くと、中年以上の日本人男性の半数以上がメタボリック・シンドローム患者ということになり、本当なのかということで大きな議論を巻き起こした。とりわけ厳しい批判を浴びせたのは、医療統計学の専門家である大櫛陽一=東海大学教授(当時、現在は名誉教授)で、『メタボの罠』(角川新書、07年刊)の中でこの基準の一部は「捏造」と言われても仕方がないほど怪しい数値で、ウエスト周囲径、血圧、脂質、血糖の4つの項目とも根拠がなく、これだと中年以上の特に男性の半分ほどが「病人」に分類され「投薬」の対象となってしまうと警告した。私は当時、全てを任されていた東京FM系の全国ネットでの週イチ1時間のトーク番組に大櫛教授を数回お呼びして批判の砲列に加わった。

こんな出鱈目が出てくるのは、松澤が03年まで教授をしていた頃に大手製薬会社20社以上から6年間に計8億3,800万円もの寄付を受けていたからである。とりわけ三共(当時、現在の第一三共)は群を抜いて額が大きく、それは同社が「日本で最も売上の多いコレステロール低下薬(メバロチン)を製造・販売していた」からである(大櫛同書)。本来ならば厚労省は、こういう出鱈目を取り締まる立場にあるはずだが、「製薬企業の集合体である日本製薬団体連合会の代々の理事長ポストは、厚労省のキャリアの天下り先」となっているので、言いなりなのである。

「政官学業」に加えて「報」も問題で、こうした裏事情を知らないわけではないマスコミはその時に批判することを避けるばかりか太鼓持ちを演じ、NHKの『ためしてガッテン』から日テレの『ミヤネ屋』などワイド番組まで、こぞってこれを大宣伝し、国民を洗脳することに加担した。

こんな風だから、大櫛が最初から指摘していたように、健康な人までが病人扱いされるのでメタボ患者が増え続け〔図3〕、医療費は08年の約33兆円から21年の45兆円へ1.4倍近くも増えてしまう結果となった。

このメタボの出鱈目は小泉政権の末期、安倍が官房長官の時に始動し、第1次安倍政権が生まれる3カ月前の06年6月に衆院厚労委員会で野党の声を押しきって強行採決され、08年4月から制度化された。その時からの安倍と松澤の縁が、第2次安倍政権に至って安倍と森下の関係に発展し、その下で「機能性表示食品」の野放図が広がった――という安倍の罪深さを知っておくべきである。

(メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2024年4月1日号より一部抜粋・文中敬称略。ご興味をお持ちの方はご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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早稲田大学文学部卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。現在は半農半ジャーナリストとしてとして活動中。メルマガを読めば日本の置かれている立場が一目瞭然、今なすべきことが見えてくる。

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