6月5日、ロシアのサンクトペテルブルクで海外メディアの取材に応じた席上、日本との平和条約交渉再開の条件に岸田政権のウクライナ政策の変更を挙げたプーチン大統領。額面通りに受け取れば、我が国がウクライナ支援から手を引けば北方領土返還もあり得るということになりますが、ロシア側にその意志があると見ていいものなのでしょうか。今回の無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』では国際関係ジャーナリストで28年間のモスクワ滞在歴を持つの北野幸伯さんが、「プーチンは北方領土を返す気がない」とし、そう判断する理由を解説。その上で、「プーチンの言うことを真面目に受け取る意味などない」と断言しています。
※本記事のタイトルはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:プーチン、北方領土を返して欲しければウクライナをめぐる立場を変えろ!の意味
プーチン、北方領土を返して欲しければウクライナをめぐる立場を変えろ!の意味
全世界のRPE読者の皆様、こんにちは!北野です。
「ロイター」6月6日付から。
ロシアのプーチン大統領は5日、日本と平和条約交渉を再開することを拒否しないとする一方、対話は日本がウクライナを巡る立場を変えた場合に可能になるとの考えを示した。ロシアに戦略的敗北をもたらそうとする呼びかけに日本は加わったと主張した。
何が書かれているのでしょうか?簡潔にすると、
- 日本と平和条約交渉を再開することを拒否しない
- そのために日本は、ウクライナを巡る立場を変えろ!
となります。
日本にとって「平和条約交渉」とは「北方領土返還交渉」と同じ意味です。だからプーチンは、「北方領土を返して欲しければ、ウクライナ支持、支援をやめろ!」と主張しているのです。
これ、どうなんでしょうか?
まず、日本人が理解すべきことは、「日本が何をしても、プーチンは、北方領土を返す気がない」ということです。これ、28年間モスクワに住んでいた私には、「当たり前の事」です。
なぜ返す気がないのか?プーチンというかロシア人は、「北方領土は、戦争によって正当に勝ち取った土地だ」と信じているからです。
「ソ連は、日ソ中立条約がまだ有効だった1945年8月9日に参戦したではないか!」とか、「ソ連が北方領土を占領したのは、日本がポツダム宣言を受諾した後だろ!」とか言っても、鼻をほじくりながら、「は~~、何の話ですか~?勝てば官軍。勝ったからこの領土は我々のものなのですよ」と一蹴されてしまいます。
モスクワにいたころ、日ロ関係は、相対的に良くなったり悪くなったりしていました。関係が良くなってくると、日本の外務省からメールが来て、「今回は北方領土返してくれそうですか?」と質問されました。私は、「無理です!」と正直に返答していました。
とはいえ、安倍さんの時代、日ロ関係がよくなった時期がありました。北方領土を返す気がないのなら、なぜプーチンは日本と仲良くしたのでしょうか?これは、「日本の金と技術が欲しいから」です。北方領土は、「日本の金と技術をもらうための(決してあげない)エサ」なのです。
少し検証してみましょう。2012年12月、安倍さんが総理大臣に返り咲きました。安倍さんは、「私の代で、北方領土返還を実現する!」と強い意欲を持っていた。それで、2013年、ものすごい勢いで、日ロ関係は改善していったのです。
ところが2014年3月のクリミア併合で、すべてが変わってしまいました。日本は、欧米と共に、ロシアに制裁を科した。プーチンは、北方領土は返したくないが、日本の金と技術が欲しい。ところが、「対ロ制裁網」に参加している日本政府は、ロシアと金儲けの話がしにくい。それで、日ロ関係は、一気に冷え込んだのです。