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EA運用者として高い実績を積み上げる一方で、FX業界全体の知識と技術の底上げを目指して精力的に活動しているたっくん氏。今回は、EAの魅力を裁量トレードとの比較を通じて語っていただいた。さらに、2022年に好成績を収めたアノマリー系や仲値系EAが、2023年には苦戦すると予想する背景についても詳細を伺った。
聞き手:鹿内武蔵
(FX雑誌『外国為替』vol.3より改変/インタビュー日:2023年1月19日)
たっくん氏プロフィール

バイナリーオプションで相場の世界に入り、現在はEA中心。複数のEAを分散運用するスタイルで、利益は株式に投入して長期的な成長を目指しつつ、ユーザーのリテラシー向上のために活動中。
バイナリーから始まった投資キャリアとFXへの転身
─EA運用者として界隈で名を知られるたっくんさんですが、投資の出発点はどこからだったのでしょうか?
たっくん 最初はバイナリーオプションです。2020年頃には株式も触りはじめ、その後2021年末にバイナリーからFXへ移行しました。そして2022年から本格的にEAを触るようになったのかな。
─バイナリーとFXを比べたときの違いについて、FXの良さって何でしょうか?
たっくん バイナリーはエントリー時点で出口が決まっている取引で、入る瞬間の判断が全てです。一方でFXは入口も出口も自分で選べます。そこが良さでもあり、最初は難しさというか戸惑いを感じていた部分でもあって。バイナリーの感覚の名残がどうしてもあるので、FXで長めにポジションを取るのは慣れない感じでした。
─なるほど。バイナリーオプションの取引は日をまたがないですもんね。FXは裁量取引もされてましたか?
たっくん 当初はバイナリーとFXを同時に行っていた時期もありましたから、最初は裁量からです。でも小さな利幅を狙うならペイアウトが大きいバイナリーで良いですよね。だから最初はFXを敬遠していました。
─FXを始める前にどんな情報収集や勉強をしていましたか?
たっくん 以前から継続していたことですが、経済の情勢や情報を主に仕入れて、ファンダメンタルズの要素を中心に勉強していました。
─テクニカルじゃないのですね。FXをやり始めてからみんな何かしら大きな失敗をされてますが、たっくんさんはそのような経験、ありますか?
たっくん ロットの計算があまり分かっていなかったんですよね。ロットを大きくしすぎていて、ちょっとした値動きですぐに損失を出していました。何ロットに対して何pipsがいくらか、という計算が最初はピンと来ませんでした。
─損益計算を苦手にされている方は少なくないと思います。FXで勝てるようになったきっかけ、ターニングポイントはありましたか?
たっくん FXではなるべく低ロットで長く保有するスイングトレードにスタイルを変えました。相場のファンダメンタルズに沿ったトレンドを利用して、そこに乗るようなイメージのトレードを実践しています。
全体的に下向きの相場であれば、とりあえずショートを低ロットで持って、時間が経てば下がるだろうというようなエントリーをして、徐々にうまくいくようになりました。ロットを小さくすることで、逆行時にポジションが気にならないというのは大きいです。
─バイナリーのときとは真逆のスタイルでも勝てるのがすごいですね。FXではロットの張りすぎが敗因だったと。
たっくん そうですね。バイナリーのときと同じ感覚で、ほんの数分で数万円稼ごうというのがありましたね。そこを意識し直して、値幅を取ってこそ利益になるのがFXだと考えを改めました。出口を自分で決められるからこそ、ある程度逆行を許容しようと。少しでも逆行したらおしまい、という状態でバイナリーをやってましたからね。含み損に慣れるみつれて自分の中でゆとりが出ました。
EA運用の現状とアノマリー戦略の課題
─今はFXでどんな運用をしているか教えてください。
たっくん EAがメインです。目に見えるトレンドがあるときだけ裁量を少しするような形に落ち着きました。利益を株式の長期投資に転用するサイクルを回しています。
─EAはどのくらい稼働しているんですか?
たっくん ポートフォリオとしてはそんなに多くありません。EAは8本を分散して運用していて、メインはアノマリー系です。あとはブレイクアウト系、スキャルピング系のEAでしたね。
─その比率をポートフォリオの中で調整する感じですか?
たっくん この1年だと、収益に関してはアノマリー系が強かったですね。ブレイクアウト系にしてもスキャルピング系にしても補助的な立ち位置でした。2022年当時はアノマリー系が強いと思っていたので、メインでしっかり動かしていました。あとは口座によって、EAの組み合わせと資金を振り分けながらやっていましたね。
─仲値EAはこの中だとアノマリー系に当てはまりますかね?
たっくん そうですね。仲値に対してアプローチがかかるEAがメインです。毎日なのか、ゴトー日だけなのかという点でちょっと種類が違います。
─先ほど8本と伺いましたが、今後EAの本数が増減することは…?
たっくん 今後はポートフォリオ内を充実させたいと考えています。株式でいうともっと保有銘柄を増やしたいという感じですね。どうしても今は仲値系メインに組んでいるというところがあって、2022年はそれで良かったんですが、2023年からはそれでは良くないと危惧しています。
─2023年はこれまでとは違うEAを使うんですか?
たっくん 昨年の夏から、2023年はアノマリー系EAだけでは勝ちにくいと考えていたので、今後のためにEAをどんどん開発してもらっています。今年の春くらいからEAの構成はガラッと変わる予定です。
─EA運用は何をどれだけ動かすかなので、この辺りの話はポイントですよね。開発は自分でするんでしょうか?
たっくん コーディングは一切できなくて、数値分析しかやっていません。メインのロジックのアイデアに関しては製作者が考えていますが、僕もフォワードを一緒に計測したり、フォワードとバックテストの数値を分析したりします。そして製作者に質問を投げて、回答をもらって、すり合わせでEAが完成します。
─なるほど。アノマリー系EAの優位性が薄れてきたとのことですが、2023年の相場はどう変わってくると思われていますか?
たっくん 流れが大きく変わると予測しています。2022年の急激な円安相場にはいろいろな要因がありましたが、やはり一番は日米の金利差です。過去にも1年で30円近くドル円が上がって、翌年に全戻しする相場がありました。だから今年は全戻しがあってもおかしくないです。
米国の金利が上がりきって高止まりになって、次は利上げした分利下げを行うと、逆回転が起こるかもしれません。そうなればドル円のロングは2023年は厳しいです。こうした流れを見据えて、裁量もEAも取り組んでいます。
─既にドル円は円高傾向に見えますが、仲値系EAはまだ通用しそうですかね?
たっくん 一概には言えませんが難しいと思います。例えば、2008年付近は仲値系のEAがほとんどのロジックでズタボロになりました。優れたEAだと言われていたものでも、とても深いドローダウンを起こしています。そのときのドル円のチャートは円高でした。だから円高トレンドが始まると、仲値系EAは弱いと予想しています。
僕が運用しているEAに限れば、過去のデータを見ると2013、2016、2022年がトップ3で良い収益で、その他の年は半分の収益だったんです。2023年は前年のロットで行っても、半分しか稼げないでしょうし、リスクを加味してロットを下げるとさらに稼げません。つまり、2022年と同様のパフォーマンスは期待できないということです。2022年と同じ期待感でいると、2023年は振り回されると思います。
裁量とEA、それぞれの強みと限界
─EA運用でうまくいった要因は何だと考えられていますか?
たっくん そうですね、大きく2つ考えられます。優秀なEA開発者と出会えたことと、開発者の作ったEAの数値分析を自分でしっかり行っていることです。開発者が作るEAのバックテストやフォワードを突き合わせて分析し、自分の理解を深めました。だからこそ自信を持って運用できたんです。
EAは勝っても負けても必ず根拠があって理屈で説明できます。裁量は人によって相場観も違いますし、そこがなかなか難しい。裁量は職人技なので、ロジックに落とし込みにくいですが、EAはデータを前提に話すわけですから主観がぶつかりにくいです。客観的なデータを踏まえた上で、どう立ち回るかは裁量的な要素ですけど。
─データを取って分析できるのはEAの強みですよね。
たっくん データ分析では、まずバックテストのデータを見て、次にフォワードのデータと比較していきます。過去にこのくらいのドローダウンが存在していたなら、今あるドローダウンは自分にとって深く感じるけれど、過去相場においては別にそうではない、といった事実が分かります。現在のドローダウンを乗り越えた先にこの成績があると理解していれば、下手に焦ることはありませんし。淡々と運用を続けられます。
─先ほどトレンドが出たときだけやってると伺いましたが、短期的な裁量トレードをやることはもうなさそうですか?
たっくん アクティブな裁量トレードは、相場に張り付く時間が自分にとっては長いです。その時間的拘束が嫌ですね。『なぜお金を増やしたいのか?』『なぜトレードをするのか?』という原点を省みると、時間的自由と金銭的余裕が欲しいのであって、それはEAでも達成できると思っています。
─確かに毎日チャートに張り付くのは大変ですよね。
たっくん 『チャートを今見ておかないとチャンスを取り逃がしてしまう!』と考えると、お酒を飲んでいるときなどでも相場が気になってしまいます。自分の人生をそこまで相場に費やしたいとは思っていなくて、自分はどちらかというと遊んだり、人と会ったりしたいです。また、裁量トレードは負けたときに辛いのも大きな理由です。そういうところで自分には合わないですね。
─時間的な拘束は、ある意味労働と変わらないと思います。裁量トレーダーで勝つ人は格好いいですし、憧れる人は多いんですけどね。
たっくん 裁量を極めている人に比べて、自分はそこまで相場、トレードに熱量がないです。ただ、自動売買がなかったら頑張っていたかもしれません。もちろん裁量の職人技はリスペクトしていて、別にEA運用でマウントを取るつもりはないです。どちらも一長一短ありますし、むしろ生半可な気持ちで裁量トレードをするのは失礼だと思っています。
外でも遊びたい、時間が欲しい、自由が欲しいのであれば、『FXじゃなくてよくない?』『裁量じゃなくてよくない?』と思って、裁量から距離を置いて線引きをしました。
─データ分析ができる点や時間的拘束がないことは自動売買の大きなメリットですが、他にメリットはありますか?
たっくん 設置さえすれば名前の通り自動で売買して、勝手に資産が増えます。自分がほとんど労力を割かずに資金を増やせるのは大きな利点です。きちんと勝てるEAがあるのが大前提ですけどね。
─では反対に自動売買の課題やデメリットを挙げるとしたら…。
たっくん デメリットはもちろんあります。EAに対する知識や理解がとても重要だし必要です。それがなさすぎるとEAを使いこなせません。使う側がEAを見極められることが大事です。EAに対する理解が浅いと、目の前の結果だけで右往左往して運用を止めてしまったり、EAに振り回されます。
それと、EAは玉石混交なので、良いものを選び取る目利きは絶対に必要な要素です。そこでダメなものをつかんでしまうと、大枠で「EA=ダメ」となりやすいですね。知識、理解がないとハズレをつかんでしまう可能性が高くなる…これは大きなデメリットです。
─EAや自動売買そのものに否定的な人も少なくないですよね。
たっくん それって、EAに対する理解がないから起こり得ると思うんですよ。EAは他責思考になりやすいくて、売る側も「EAはお金が増える!」という面ばかりにフォーカスするのが良くないです。運用の知識が学べる場が、まだそんなに多くはないですしね。
FX界隈、EA界隈のリテラシー向上を目指す
─たっくんさんは目先のお金にならない活動もされていますけど、どんな思いでやっているんですか?
たっくん 評価をされるべき人が正当に評価されてほしいという想いからです。受け手のリテラシーが上がることで本当に価値があるものを見極めることができるのではないか。EA利用者の1人でもある自分だからこそ伝えれるものがあると思っています。
─この活動をしていて、良かったことと悪かったこと、それぞれ教えてください。
たっくん 良かったことは、少なからず感謝してもらえたり、取り組みに賛同してくれる人からの協力を得られたことです。自分の声を届けやすくなったのは良い面かな。悪かったことは、これといってないです(笑)。
─最後に今後の目標をお願いします。
たっくん FXリテラシー向上が目標です。ユーザー同士が競争するのではなく、「共創」していく。あくまでも競う相手は悪質な商材を売っている人たち。そのためには、業界全体での協力が必要不可欠だと思います。そんなきっかけを作っていきたいですね。
─そうですよね。今はFX業界の成熟期で、トレーダーのレベルも情報発信者の質も上がっていると感じます。本日は貴重なお話をありがとうございました。
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