■資本政策と株主還元策
1. 累進配当制度の定着と配当性向のコントロール
極東貿易<8093>の利益分配の基本方針は、株主への継続的な成果の還元と企業価値の持続的向上を両立させることにある。前中期経営計画の前半(2022年3月期~2024年3月期)においては「配当性向100%」という極めてアグレッシブな方針を採用し、自己資本の積み上がりを強制的に抑制してきた。その後、収益基盤の回復と成長投資(M&A)の本格フェーズに入ったことを受け、2026年3月期からは「累進配当制度」へと方針を転換した。これは、原則として減配を行わず、配当水準を維持または利益成長に合わせて増配していくという、株主にとって非常に予見可能性の高い(安心感のある)還元政策である。配当性向の目安は、一過性の特別損益(投資有価証券売却益や負ののれん発生益など)を除外した「調整後当期純利益」を基準として50%程度に設定されている。これにより、一時的な要因で配当金が乱高下するリスクを排除しつつ、既存事業のオーガニックな利益成長(2029年3月期の営業利益35億円目標)に連動して、将来的な配当水準(下限である74円からの引き上げ)が増加していく蓋然性が極めて高い設計となっている。
2. 自己株式取得の実施とROE/PBR改善へのコミット
配当によるインカムゲインの提供に加えて、同社は自己株式の取得を資本政策の機動的な手段として活用している。前中期経営計画期間中にも自己株式の取得・消却を実施し、発行済株式総数を約6.5%削減する実績を残した。そして新中期経営計画の初年度である2026年5月14日の取締役会において、発行済株式総数(自己株式を除く)の4.99%に相当する上限60万株、または総額10億円の自己株式取得を決議し、直ちに実行に移している(取得期間:2026年5月15日〜2027年2月28日)。同社は、PBRが1倍を割り、ROEが株主資本コスト(7%)を下回っている現状を重大な経営課題として受け止めている。今回の自己株式取得は、分母(自己資本)を圧縮することで直接的にROEを押し上げ、ひいてはPBRの1倍超えの実現に向けた同社の強い意志がうかがえる。本業の収益性向上という本質的な課題に向き合い、資本政策の高度化をさらに推し進めることで、上場企業として市場の期待に正面から応えようとする同社のスタンスは、投資家から高く評価されるべきであろう。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 清水 啓司)
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