fbpx

株価下落「三菱重工」今が買い?長期投資家が見るべき“防衛だけじゃない”強さと投資リスク=栫井駿介

13.2兆円の受注残は大きな強み

三菱重工業を分析するうえで、受注高と受注残は非常に重要です。

前期の売上収益は約4.9兆円でしたが、新たに獲得した受注高は約7.6兆円でした。

2026-07-28-22.41E381AEE794BBE5838F.png

出典:三菱重工業 決算説明資料

1年間の売上高を受注高が約2.7兆円も上回っています。
さらに、過去に獲得し、まだ売上に計上されていない受注残高は約13.2兆円に達しています。

受注残は、将来納品すれば売上になる契約の積み上がりです。
通常、受注した案件は簡単には取り消されないため、受注残が大きいほど将来の売上を見通しやすくなります。

現在の年間売上高と比べても非常に大きな受注残を抱えていることから、今後、三菱重工業の売上高が拡大する可能性は高いと考えられます。
需要そのものが見えない企業と比べれば、これは明確な強みです。

ただし、受注残は「将来の売上」であって、「将来の利益」が保証されているわけではありません。

大型受注には採算悪化のリスクがある

三菱重工業が手掛ける製品は、受注から完成・納入までに長い時間がかかります。
その間に原材料価格、人件費、為替、金利、規制などの条件が変化する可能性があります。

契約時に販売価格が決まっていても、その後にインフレが進み、原材料費や人件費が上昇すれば、最終的に残る利益は少なくなります。
工期が延びたり、設計変更や追加対応が必要になったりすれば、さらに採算が悪化することもあります。

受注残が積み上がるほど将来の売上は見えやすくなりますが、同時に、案件を計画どおりに完成させる能力が問われます。
今後の三菱重工業を見るうえでは、受注の多さだけでなく、次の点を継続的に確認する必要があります。

  • 受注残を予定どおり売上に転換できているか
  • 売上の増加に伴って利益も伸びているか
  • 原材料費や人件費の上昇を価格に転嫁できているか
  • 大型案件で追加損失や納期遅延が発生していないか
  • 利益率やROEの改善が持続しているか

MRJの失敗が示す大型プロジェクトの難しさ

大型プロジェクトのリスクを示す代表例が、国産旅客機「MRJ(のちのSpaceJet)」です。

三菱重工業は国産旅客機の開発に長年取り組みましたが、開発の遅れや認証取得の難航などから、最終的に事業から撤退しました。
長期間にわたって多額の資金を投じたものの、事業化には至らず、巨額の損失を残す結果となりました。

大型プロジェクトは、問題が起きても簡単に中止できません。
すでに多額の資金を投入していることに加え、顧客、取引先、従業員、政府など、多くの関係者が存在するからです。
その結果、撤退判断が遅れ、損失が膨らむことがあります。

三菱重工業の高い技術力は大きな強みですが、「高度な製品を作れること」と「予定どおりのコストと期間で完成させ、利益を出せること」は別の問題です。
今後も同社には、大型案件の進捗と採算を厳格に管理する経営力が求められます。

経営は収益性重視へ変化している

MRJの失敗などを経て、三菱重工業の経営は変化しつつあります。

近年は、収益性やキャッシュ創出力を重視し、競争力があり、利益を見込める事業に経営資源を集中する方向へ転換しています。
実際、ROEは足元で改善しており、以前よりも資本効率を意識した経営が進んでいると考えられます。

もっとも、最近の業績改善がすべて経営改革の成果とは限りません。
防衛費の増額、データセンター向け電力需要の拡大、世界的なエネルギー安全保障への関心など、外部環境の追い風も大きく寄与しています。

今後は、追い風が弱まった場合でも利益を確保できるか、巨額の受注残を採算よく消化できるかが、経営改革の真価を測る試金石となります。

PER34倍をどう考えるか

株価下落によって、三菱重工業のPERは一時の約50倍から約34倍まで低下しました。

ただし、一般的な日本株と比較すれば、PER34倍は決して割安と言い切れる水準ではありません。
現在の株価には、防衛、ガスタービン、原子力などの成長期待がなお相当程度織り込まれていると考えられます。

一方、約13.2兆円の受注残が順調に売上へ転換され、利益率も維持・改善できれば、将来の利益は拡大します。
その場合、将来利益を基準にした実質的なPERは、現在表示されている数値より低くなる可能性があります。

結局のところ、現在の評価が高いか低いかは、受注残からどれだけの利益を生み出せるかに左右されます。
売上高の増加だけではなく、営業利益率、事業利益、キャッシュフロー、ROEなどを併せて確認することが重要です。

Next: 「防衛事業」だけで三菱重工業を判断しないこと。プロの投資戦略は…

1 2 3 4 5
いま読まれてます

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

MONEY VOICEの最新情報をお届けします。

この記事が気に入ったらXでMONEY VOICEをフォロー