なぜアジアで儲かるのか。価格と出店密度に注目
海外展開の中心は、中国大陸、台湾、香港に加え、タイ、シンガポール、インドネシア、マレーシアなどのアジア地域です。
日本では身近な回転寿司も、海外では「日本の寿司を気軽に楽しめる場所」として価値を持ちます。
日本と同じ価格の先入観があるとは限らず、現地の需要に合えば、より高い価格で提供できる余地があります。
ただし、「海外は人件費も家賃も安いから儲かる」と一括りにはできません。
香港やシンガポール、中国の大都市などでは、店舗運営コストも高くなります。
重要なのは、そのコストを上回る売上と粗利益を確保できるかです。
そこで効いてくると考えられるのが、一定の地域に店舗を集める出店戦略です。
寿司の主な材料である魚は、鮮度管理が欠かせません。
必要な量を安定して仕入れ、適切に保管し、店舗へ運び、廃棄を抑えて売り切る。
その一連の仕組みが利益を左右します。
近い地域に店舗が増えれば、仕入れや物流をまとめやすくなります。
広告の効果も複数の店舗に広がり、「回転寿司といえばスシロー」という認知を育てやすくなるでしょう。
いわゆるドミナント戦略の効果です。
現地化も欠かせません。
ネタや味付け、価格だけでなく、人気キャラクターとのコラボレーションなど、来店のきっかけをつくる工夫が求められます。
中国での「ちいかわ」とのコラボは、こうした販促の具体例として挙げられます。
訪日旅行で日本の寿司に親しんだ人が、帰国後も食べたいと思う。
このような需要の循環も、アジアでの成長を後押しする可能性があります。
日本の店をそのまま持ち込むだけでなく、現地のお客さまに選ばれる形へ調整する力が問われるのです。
くら寿司との利益率の差は、どこから生まれるのか
同じ回転寿司でも、スシローとくら寿司では収益性に差が見られます。
営業利益率はスシロー側が約8%、くら寿司側が約2%と、およそ6ポイントの開きがありました。
ただし、FOOD&LIFE COMPANIES全体とくら寿司全体の比較には、事業構成や会計基準の違いも含まれます。
この数字だけで、一店舗ごとの経営能力に4倍の差があるとはいえません。
それでも、売上を利益へつなげる仕組みに注目するきっかけにはなります。
海外展開にも違いがあります。
くら寿司は北米に早くから進出し、2009年に米国で出店を始めました。
米国子会社は現地で上場しており、北米での店舗網では先行しています。
一方、売上を伸ばしながらも、利益の確保に苦戦していました。

人件費や賃料の高さに加え、新規出店に伴う費用も重荷になります。
「米国は物価が高いのだから、寿司も高く売ればよい」と考えるかもしれません。
しかし、値上げをしても客数を維持できるか、十分な回転率を確保できるかは別の問題です。
米国の広さも課題になります。
ニューヨークとロサンゼルスのように遠く離れた場所に店舗があれば、店舗数の増加がそのまま物流効率の改善につながるとは限りません。
アジアでも国や地域をまたげば同様の難しさがあり、単純な店舗数より出店の密度が重要です。
海外売上が伸びていることと、海外で儲かる仕組みができていることは違います。
スシローの評価では、出店数だけでなく、利益率を保ちながら拡大できているかを見るべきでしょう。
プロ経営者の改革と、利益追求の裏側にある課題
スシローの経営を考えるうえで、前社長の水留浩一氏の存在は外せません。
広告会社やコンサルティング会社、企業再生支援機構、日本航空などで経験を積んだ経営者です。
このような経営者に期待されるのは、経験や勘だけに頼らず、「どこで売上が生まれ、どこに無駄があり、何を変えれば利益が残るか」を整理し、改革を実行する力です。
価格設定、仕入れ、出店、店舗の省人化、デジタル技術の活用。
スシローの強さは、一つの施策というより、これらを組み合わせて収益を改善する力にあるのではないでしょうか。
社長を引き継いだ山本雅啓氏も、広告や海外ビジネスの経験を持ちます。
海外でブランドを育て、現地のお客さまに伝える力は、アジアでの成長を考えるうえで注目できる要素です。
対して、くら寿司は創業者が長く経営を率いてきた企業です。
商品へのこだわりや独自の仕組みづくりと、外部で経験を積んだ経営者による改革。
それぞれに強みがあり、どちらが常に優れているという話ではありませんが、注目したいポイントではあります。
スシローの合理的な経営にも注意点はあります。
2022年には、広告した商品を十分に提供できない「おとり広告」の問題で、消費者庁から措置命令を受けました。
この問題を経営者の出身だけで説明するのは適切ではありませんが、利益の追求と、お客さまとの約束を守る体制が両立しているかは、長期投資家にとって大切な論点です。
足元の業績がよいことだけで、企業文化や管理体制の課題がすべて解決したとはいえません。
一方、値上げが受け入れられやすくなるなかで、商品価値を高めながら利益を確保する選択肢は広がっています。
経営の強みが生きる環境になった、という見方もできるでしょう。
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