お稚児さんの選び方は?京都通しか知らない「祇園祭」完全ガイド

 

祇園祭の主役・長刀鉾のお稚児さん

毎年7月の京都は鉾町(ほこまち)のあちこちで祇園祭のお囃子(はやし)が聴こえてきます。鉾町とは室町通と新町通の周辺で四条通を周辺に南北に広がるエリアで祇園祭の山や鉾を出す町のことをいいます。前祭(さきまつり)の山鉾巡行で毎年決まって先頭を行く長刀鉾(なぎなたぼこ)は山鉾の中心的な役割を果たします。現在唯一生稚児(いきちご)を乗せて巡行するのも長刀鉾だけです。祇園祭の主役ともいえる「長刀鉾のお稚児祭さん」に関する興味深い話を紹介します。

唯一の生稚児

長刀鉾は選ばれた生稚児が禿(かむろ)と共に搭乗します。かつては船鉾を除いた全ての鉾に稚児が乗っていたようですが、今では生稚児が搭乗するのは長刀鉾だけです。1788年の天明の大火で壊滅的な被害を受けた函谷鉾(かんこぼこ)が1839年に復興する際、稚児人形を用いました。これをきっかけに、以後他の鉾もそれにならい稚児人形に替えていきました。

6月の大安の日

稚児は8~10才ぐらいの男子が選ばれ長刀鉾町と養子縁組をします。6月中の大安の日に結納が贈られます。稚児に選ばれた家では、結納の儀に合わせ、八坂神社の祭神・牛頭天王(ごずてんのう)をお祀りする祭壇が設けられます。

7月13日 社参の儀

稚児が白馬に乗り、正五位少将(しょうごいしょうしょう)の位と十万石大名の格式をもらう儀式の為に、八坂神社へ社参します。この儀式は別名「お位もらいの儀」といわれ、その位は平安末期に太政大臣だった平清盛と同じぐらいのものだそうです。この儀式が終わると稚児は「神の使い」となります。この後、14日~16日まで毎夕7時に、介添えの人々と共に社参します。「神の使い」となった稚児は、食事の際にお膳は火打石で打ち清めてから食べることになります。稚児家では、女人禁制となり父や祖父の男性だけで食事をし、祭壇がある注連縄の張られた部屋で過ごします。

早朝より稚児は白塗りの厚化粧をし、神に仕える装束に身を包みます。神の使いとなった稚児は穢れから身を守るために地上を歩かず、屈強な強力(ごうりき)の肩に担がれ鉾の上まで昇ります。

巡行のハイライト

17日午前9時、長刀鉾を先頭に前祭の全ての山鉾23基が順に四条烏丸を出発します。ハイライトは稚児による「しめ縄切り」です。先頭を行く長刀鉾が四条麩屋町(ふやちょう)にさしかかった時に、通りを横切って張られたしめ縄を稚児が刀で切り払います。そして神域に入る道を開くのです。その後長刀鉾は四条寺町のお旅所前で停止し、疫霊を祭神にお渡しする御霊会(ごりょうえ)本来の儀式を行います。役員が玉串を捧げ、稚児が舞い、八坂神社に向かって一礼します。この後、四条河原町を左折し河原町通りを北上し、御池通りの観覧席から盛大な拍手で迎えられます。稚児と禿は御池通新町で鉾から降り、八坂神社へと向います。八坂神社では位を返す「お位返しの儀」が行われ、稚児と禿は再び普通の少年に戻ることになります。

稚児の選び方

「一般公募」やオーディションのようなものはなく、選定方法は「神事に関すること」として非公開。多くは祇園祭の役員周辺や有力な自営業者で資産家の家系から年頃の男児が選ばれているようです。過去1年以内に家族内で不幸があった家庭は選定から除外されます。

稚児に選ばれた両親は本人の羽織袴や着物を新調しなければなりません。そればかりか、行事の後の宴会費用、参加者のハイヤー代、謝礼など全て自己負担です。

最低でも2,000万円は下らないとみられています(1億円ぐらいかかるとも)。数ある儀式の前後には関係各所に挨拶に出向くことになります。1日に何軒も周ることもあるでしょう。稚児のお母さんが毎回同じ着物という訳にもいかず、その都度違うものをしつらえるという話も聞きます。稚児のお母さんの着物を用意する呉服屋さんは、そのお母さんの着物関係の売り上げだけで1年暮らしていけるそうです。祇園祭のお稚児さんは色々な儀式が執り行われますので、その儀式ごとに着物を買いそろえなくてはいけません。他にも、お祝いの品を買い揃えたりするので巨額の費用がかかります。このように候補に挙げられる家庭も限られていますので親子代々や兄弟でお稚児さんをするケースもよくあります

私が知る限りくずきりで有名な祇園の「鍵善良房」さんは親子2代で長刀鉾のお稚児さんに選ばれています。昨年も某老舗呉服店の御曹司が選ばれ親子2代でした。お父さんは祇園祭の期間中は仕事に行かずにお稚児さんのサポートをしなければなりません。お稚児さんに選ばれた本人も儀式や行事のために何日も学校から公休をもらわなければなりません。神の使いになる訳ですから稚児家に選ばることは名誉なことですが、それだけに誰もが簡単に出来るようなことではないのです。まさに京都の良家の御曹司でないと務まらないとても名誉な大役です。

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