大手旅行誌の元編集長が明かす、食事が不味い「安宿」の見分け方

 

もちろん、こうしたこともすべて部屋数が少ないから可能なわけだ。 30室、定員120人では、さすがに家族だけではムリだろうし、逆に料理の出が遅いとかのクレームになってしまう。 120人分の魚を安定的に用意できるのか、それをご主人だけで料理できるのかというのも、はなはだ疑問になってくる。

これは民宿だけに限らない。 部屋数10室以下の小さな旅館となれば、雇う従業員の数も少なくてすむし、板前さんを雇ったとして、その板前さんがきちんとした人であれば、原価率を抑えつつ、金ではなく手間をかけて、おいしい料理を提供したいと考えるはずなのである。

昼休みには山へ出かけて地物の山菜を採ってくる、食卓に飾る野の花を摘んでくる、農家の人と仲良くなっておいしい野菜を探してくる、といった、料理と別の形で体を使ったり頭を使ったりしてくれる板前さんであれば雇う意味はものすごくある。 すごく手間はかかるが、漬物だって自家製の方が圧倒的にうまいし、塩漬けや一夜漬けくらい僕だって作れる。 民宿以外で、自家製の漬物が最後に出てくる安い中規模宿って、あんまり知らない。

ある程度の数を毎日用意しないといけない中規模以上の宿だと、漬物一つとっても、自分で漬けている時間がないのである。 作れないわけないから、圧倒的に仕事の上での時間がないのである。 100人前の料理を作る準備、つまり仕込みだけですら忙しいから、昼休みに周辺の山に出かける暇なんか全然ないわけである。

よく、刺し身が切って盛りつけられていて、それが乾いていた、ということがクレームになったりするが、たとえば50室200人規模の宿で刺し盛りを出す場合、1人分が6カン(6切れ)として包丁を1200回ひかなければならない

もっと大規模の宿であればさらにその回数が増える。

当然ながら、刺し身は機械でひくことはないので物理的な時間がかかる

宿の夕食はたいていが同じ時間帯に集中するので、あらかじめ刺し身もひいておかないと間に合わない。 天ぷらだってそうだ。 冷めていても仕方がない部分もある。 まあ、今は冷蔵庫ならぬ温蔵庫があるので、茶碗蒸しなどはあらかじめ作ってこれに全部入れておくわけである。

こうやって考えてくると、中規模以上の宿で宿泊料が安い場合、どうしてもおいしい料理にたどり着き辛いということがわかるはずである。

ま、小さな宿でも、民宿でも、全然料理がだめなところもあるので、すべてがそうだとは決めつけられないが、こぢんまりとした宿の方がおいしい料理にあたりやすい、ということは間違いない。

かの和倉温泉加賀屋』に2万円で泊まっても、おそらく真髄はわからない。

なにしろ、値段が高いお客さんとは素材も調理場も別だという話である。

先に名前を挙げた『稲取銀水荘』も、特別室の客には別の特別室用の調理場で調理をして盛りつける器もレベルが全然違うそうだ。 なんたって「本物の魯山人」に盛って出すと聞いたからねえ。

このあたりは、ずっとそこで働いていた「あいおい」のマスターにもきちんと話を聞いて、次号で詳しく取り上げてみたい。 お楽しみに。

 image by: Andriy Chin / Shutterstock.com

 

『温泉失格』著者がホンネを明かす~飯塚玲児の“一湯”両断!』より一部抜粋

著者/飯塚玲児
温泉業界にはびこる「源泉かけ流し偏重主義」に疑問を投げかけた『温泉失格』の著者が、旅業界の裏話や温泉にまつわる問題点、本当に信用していい名湯名宿ガイド、プロならではの旅行術などを大公開!
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