大手旅行誌の元編集長が明かす、食事が不味い「安宿」の見分け方

 

僕は学生時代に飲食店の調理場で5年も働いていて、料理専門誌でも数年間飲食店のメニューを紹介する連載を持っていた。 しかも最近は近所の飲み屋「あいおい」のマスター(なんと、かの『稲取銀水荘』の板場にいた)ともよく話をするので原価計算の常識はよく知っている。 どこの宿もそうだし、飲食店でも、材料費というのはその料理の単価の3割くらいだと思えばいい。

つまり800円のアジフライ定食の材料費は240円くらいである。

アジ2尾、パン粉、揚げ油、キャベツの千切り、ドレッシング、みそ汁の具に味噌そのもの、ご飯、小鉢(これは前日の刺し身のあまりなんかを有効利用するところが多い。 だから居酒屋のお通しはマグロの角煮や魚の南蛮漬が多いわけである)、そして漬物(これが実はかなり足を引っ張る。 高いのだ)。

もちろん、醤油やソース代も考えないといけない。 で、240円。 苦しいぞ。

なんで3割なのか、というと、売値には材料費のほかに板場の水道光熱費や人件費などが乗ってくるからである。 だから、前述したような「それなりの規模がある」宿というのが、もっとも原価率が低くなってしまう。

というのも、それなりの規模がある宿では、板場の人間も数人いないとムリ、仲居さんだって雇う必要がある。 調理場と仲居さんを繋ぐ役割の人(そういう人がいるんですね)も必要だ。 板場の人にはどういう人がどのような序列で存在しているかは、次号で書くことにするが、実は大きな宿はもちろん、中規模程度の宿でも「板長」を雇っていることがほとんどだ。 この板長の給料がすごく高いのである。 ある人に言わせれば「調理師会がガンだ」とか。

このことも次回触れたい。

話を戻すと、そうした理由からそれなりの規模がある宿で値段が安いと料理がうまくない、ということになることが多いわけである。

一方、料金が安くても飯がうまいという宿も存在する。 いい例はやはり民宿だ。 民宿の場合は、料理を家族総出で作っていることが多く、週末だけ料理を客室に運んだり、洗い場を担当したりするパートを雇うことがあってもそのほかはたいてい自家労働力でまかなえる。 家族経営の人件費などは、正直あってないようなところがほとんどで、悲惨な話だが、「おいしかったよ!」とお客さんに喜んでもらえることをよしとして成り立っていることが多い

さらに、漁師民宿などではご主人が自分で獲ってきたものがメイン材料な訳で市場よりも浜値よりも安いということになる。

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