トランプ・ショックで厚みを増した、米国を分断する高く重い壁

 

デプロラブルの壁

9月、ヒラリーは支持者(コアな支持グループであるニューヨークのLGBTコミュニティだった)のファンドレイジングイベントで、ついうっかりこんなことを言ってしまった。 

“You know, to just be grossly generalistic, you could put half of Trump’s supporters into what I call the ‘basket of deplorables.’ Right? The racist, sexist, homophobic, xenophobic, Islamophobic — you name it. And unfortunately, there are people like that, and he has lifted them up.” 

「ごく大雑把なくくり方をすると、トランプ支持者の半分は、わたしが『デプロラブルのカゴ』と呼ぶカテゴリーに入れて良い人々だと思います。そうですよね? レイシスト、性差別主義者、同性愛を嫌悪する人、外国人恐怖症やイスラム恐怖症の人など。残念ながらこういう人たちは存在します。トランプはこういう人たちを持ち上げてしまったのです」 

そして、残りの半分のトランプ支持者は「政府に取り残され、経済に恵まれず、誰にも顧みられることない人々、彼らの生活や将来については誰も案じてくれず、絶望的なまでに変化を必要としている人々」だとして、「彼らに対しては理解と共感を持つべき」と自分の支持者に向かって訴えた。 

デプロラブルというのは「嘆かわしい人たち」というほどの意味で、「どうしようもないクズ」「手のほどこしようのないカス」を上品に言い換えた言葉だといって差し支えないと思う。 

この発言が大炎上した。 

トランプは「うちの支持者をデプロラブルと呼ぶとは何事だー!」とここぞとばかりに攻撃し、トランプ支持者は 

わたしはデプロラブル」 

と誇らしげに宣言するTシャツやバッジやプラカードを身につけて集会に参加するようになった。ヒラリーはメラメラと燃えるルサンチマンにガソリンをまいてしまったのだ。 

ヒラリーの発言は、マーケティング目線だ。 

「この層の人びとはうちの商品に興味を持つことはありません。わたしたちがターゲットにするべきなのは、こっちの層の人びとです」という、ごく簡単に図式化して考える方法。 

「残りの半分に理解と共感を持つべき」という言葉も、恐ろしく上から目線なのだ。少なくともそこには共感は感じられない。 

この発言は、でも、豊かな都市に住むリベラルな人々には、そのまますんなりとスルーされてしまう。 

都会のリベラルにとって「山の向こうの頑固で蒙昧な人々」は理解しがたいグロテスクな存在だ。 

もちろん逆も真なりで、平原の小さな町の信仰篤い人々は、都会のリベラルを堕落した気味の悪い有象無象の存在だと思っていることだろう。 

リベラルな都会の人々と反エスタブリッシュメントな田舎の人々の間には高い壁があって壁の両側でお互いをバカだと思っている。 

今回の選挙は、その壁をいやが上にも高く厚くしてしまった。 

「多様性」「政治的正しさ」というのはイデオロギーではなくて自明の選択だと思ってきた人たちは、国民の半数の無理解と暴言を容認する無関心を実感して、理解を阻む気味の悪い壁の前で呆然としている。 

 

【TOMOZO】 yuzuwords11@gmail.com 

米国シアトル在住の英日翻訳者。在米そろそろ20年。マーケティングや広告、雑誌記事などの翻訳を主にやってます。

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image by: shutterstock

 

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