トランプ・ショックで厚みを増した、米国を分断する高く重い壁

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今回の米大統領選のトランプ当選は世界中に多くの衝撃を与えましたが、一方でヒラリーに「デプロラブル」(嘆かわしい人たち)と揶揄され怒っていた人々はトランプの当選を喜び、かつての「強いアメリカ」に戻ることを期待しているようです。なぜ「自由の国・アメリカ」のスローガンでまとまっていた国民に、このような距離が生まれてしまったのでしょうか? 無料メルマガ『クリエイターへ【日刊デジタルクリエイターズ】』の執筆者のひとり、米シアトル在住の英日翻訳家・TOMOZOさんから、現地リポートが届いています。

911以来の衝撃

この数週間、わたしは無関心すぎた。トランプがまさか勝つとは思っていなかった。わたしは間違っていた。もっと関心を寄せなかったこと、もっと行動しなかったことが悔やまれる。今は残念としか言えないことが残念だ。でもこれからは、トランプと彼に投票した人びとに標的にされている人びとを守るために、わたしは全力で働く。これからはもう無関心ではいない

選挙の翌日、シアトル在住の知人の白人女性(30代、弁護士)はフェイスブックにそう書き込んだ。 

超がつくほどのリベラル都市であるシアトルでは、選挙当日までほとんどの人がヒラリーの勝利を確信していただけに、トランプの勝利にとてつもないショックを受けた。大学キャンパスでは選挙結果について話し合いながら泣き出す女子学生も多かった。 

まるで世界大戦の開戦かなにかが宣言されたかのような、1日にしてそれまで当然だと思っていた世界が変わってしまったような衝撃。
まさに、911の同時多発テロ以来の衝撃だった。 

トランプは就任早々に不法移民を一斉に排除すると公約しており、オバマ大統領が実施した、年少時に不法移民として米国に来た学生に一時的な法的権利を与える大統領令も就任早々撤回すると宣言している。友人や知人の身の上を案じる人も多い。 

選挙戦中にトランプが振りまいた暴言に本気で怒り、しかしこんな馬鹿者がまさか本当に大統領になるはずがないと失笑していた西海岸のリベラルな人びとは、自分たちが何よりも大切にしてきたはずの価値観をまったく尊重しようとしないその暴言王と追随者たちに国政のトップが握られてしまったという事実に、心底打ちのめされている。 

選挙後、シアトルでは大人や大学生だけではなく、中高生のデモも行われた。(反対デモはほかの都市のような破壊活動に発展せず、平和的な行進にとどまっている。) 

誤解している人もいるようだが、これはヒラリー支持者のデモではない。多様性の尊重、マイノリティや女性の権利といった、トランプが鼻で笑ってバカにした価値観を自分たちは絶対に守るという意思表明だ。オバマ政権の8年間の間に成人したミレニアル世代にとって、特にその衝撃は大きかったのだと思う。 

とにかく街に出て集まってまだ世界が変わっていないことを確認しなければいられないほど、リベラルな都市の人々は動揺していたのだ。

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