日本という国は、一種のふきだまりの国だという。「ふきだまり」というのは、風に吹かれて雪などが一ケ所にたまったところの呼び名であるが、大陸から日本海を越えてこの国に来た西からの文化は、交通手段の近代化が実現するまで、太平洋を越えて新大陸に移動することがなかった。だからこの島で大陸文化が積み重なったのであって、パン食の文化もその例外ではなかったというわけである。
オリエントから中国、朝鮮系の各種パン(麺包)と、ポルトガル、イスパニア、オランダ、フランス、イギリス、ロシア、アメリカ、インド、エジプト、アラブなどのパンのすべてが、今の日本のベーカリーの店頭を飾っているのもこのためなのだという。
ただ一つ例外ともいうべきものが、明治初頭、日本産の酒種生地のあんパンに始まる菓子パン群なのであろう。あんパンは、もう100年を超える歴史をもつ食文化なのであり、後世に伝えるべき文化遺産なのである。
デニッシュペストリーのあんパンの方が口当たりがいいし、好みだという人も多いだろうし、フランスパン風の生地のあんパンも喜ばれる。揚げパンも揚げあんパンだという人、店もあるくらいであんパンの一種だし、ほのかな酒のかおりがする元祖、酒種を使ったあんパンも売っているし、あんパンのバリエーションもいろいろ広がっている。また海外に進出しているあんパンもある。
ベーカリーのサンジェルマンは50年代末、パリに支店を開設。本場フランスの業界に堂々伍し、評判もすこぶるいいという。そしてパリッ子に一番人気があるのはあんパンとか。
運動会のパン食い競争のあんパン、遠足やおやつのあんパン、そのほかさまざまな思い出あんパン…世代を越えた人々の郷愁の中にあんパンは生きつづけてきたし、これからもずっずっと愛され食べつづけられるだろう。それになんといっても、あんパンには”アンパンマン”っていう強〜い味方がついているのだから。