勘違いにも程がある経団連会長「学生はもっと勉強しろ」発言の何様

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「大学は学生にしっかり勉強させろ」という経団連の中西会長の発言が波紋を呼んでいます。これに対して、「学生の学業を軽視しているのはむしろ企業側では」と指摘するのは、米国在住の作家で教育者でもある冷泉彰彦さん。冷泉さんは自身のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』で数々のその「証拠」を提示し、中西発言の矛盾を突いています。

大学生の学業を軽視しているのは企業側ではないのか?

経団連の中西宏明会長は9月25日、定例記者会見で「就活のあり方に疑問」があるとして、次のような発言を行ったそうです。

現在の大学教育について、企業側も採用にあたり学業の成果を重視してこなかった点は大いに反省すべきである。学生がしっかり勉強し、企業がそうした学生をきちんと評価し、採用することが重要である。

学生がしっかり勉強するよう、大学には有意義な教育を実施してもらいたい。

中西会長は、日本人学生が諸外国の学生と比べてあまり勉強しないと指摘し、欧米だけでなく、中国やシンガポールを始めとしたアジアトップレベルの大学の学生の勉強量は「日本の大学生の比ではない」と述べた上で、

日本の場合は、入学することに比べて、卒業することはさほど難しくない。企業の側もこの実態をそのまま受け止めてしまっている。こうしたことが私の問題意識の根本にある。学生がしっかり勉強するよう、大学には有意義な教育を実施してもらいたい。

と語ったそうです。この報道に対してネットでは、「就活に時間がかかるシステムがあり、それを強いている企業側から、そんな発言が出るのは心外」という声が上がっています。

現在でも、「大学3年生の時からインターンシップと称して選考をやっている」などという実態は幅広くあるようです。現時点では、「解禁」の継続が議論されているわけですが、既にこうした「就活ルール」は無視されており、公称の「解禁日」の半年以上前から学生は就活を意識せざるを得ないからです。

内定が出たら出たで「内定後のインターンに呼ばれる」とか「10月1日には一斉に内定式がある」といった、バカバカしい縛り」もあります。企業側は、内定者に「他に逃げられては困る」のでこうした拘束をかけるわけですが、逃げる人材は何をやっても逃げます。辞退されたら、通年採用で補充したらいいだけなのに、全くもって学生の時間をバカにしているとしか言いようがありません。

経団連が「大学での教育の重視」を言うことのおかしさは、このように企業側が学生の時間を猛烈な規模で拘束しているからだけではありません。企業側が、本当の意味で「大学での学業を尊重しているとは思えないという問題は別にあります。

理系の一部の学科で、専攻内容がそのまま就職後の専門になる「幸福なケース」はいいとして、他の場合、特に文系の場合は、企業側が大学での教育内容を尊重しないケースは山のようにあります。例えば、

「当社にとってのマーケティングは、独自の長い成功体験に基づいているので大学でマーケティングなど専攻してきて、それと異なる色のついた学生は困る

「当社の会計制度は、独自の原価計算哲学(本当は粉飾スレスレの)に基づいたものだから、経理担当社員には地頭(じあたま)が良くて計数に強い人材が欲しい。会計学など学んで来られて学生気分の理想論を振り回されるのは迷惑

「労働法とか、環境問題とか企業を敵視するような勉強をしてきた学生は、徹底的に根性を叩き直さないと使えない

こうした封建時代のような思想に凝り固まった企業があるのは問題です。そのような企業の場合は、平気で「大学教育には期待しない」と言う姿勢を明確にしているわけですが、そうした実態を放置しながら、経団連として「大学ではもっと勉強を」などと言うのは「チャンチャラおかしい」としか言いようがありません。

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