落胆の三木谷氏。ゴリ押し英語民間試験「身の丈」発言への恨み節

 

英語学習に「読み書き話し聞く」の四つの技能が必要なことは誰でもわかるし、日本の教育が読解にばかり偏ってきたのではないかという指摘もわかる。これをなんとかしようと1989年、文部省(当時)はコミュニケーション重視の英語学習指導要領をつくり、英会話に力を入れてきたはずなのに、いっこうに状況は改善されない。その原因がわからないまま民間英語試験に頼ろうとする姿勢への疑念でもあろう。

この有識者会議ではめざす議論がスピーディーに進まないと見てとった三木谷氏は2014年3月19日付けで同会議の吉田研作座長あてに下記のような意見書を提出した。

  1. 有識者会議の下に「入試改革に関する小委員会」を設置する
  2. 本小委員会 では、以下の内容について検討を行う
    ・高校入学試験における本趣旨に沿う外部試験の活用の方策
    ・大学入学試験におけるTOEFLの導入に向けた具体的な方策
  3. 有識者会議は本小委員会の結論を尊重し、有識者会議の議論のとりまとめに反映させる

民間試験の導入を前提とした小委員会をつくりその結論を有識者会議は尊重せよというわけだ。三木谷氏は官邸に設けられている産業競争力会議のメンバーでもあり、ビジネスに役立つ英語力アップをという同会議の議論の流れをひっさげて文科省を動かそうとしたのである。

出来レースだったのだろうか、三木谷氏の意見はすぐに採用され、7月に小委員会が開かれて、英語民間試験導入へと大きく前進した。その後の有識者会議では、三木谷氏と大津教授の意見が激しく対立する場面があった。

2014年9月4日に開かれた8回目の会議でのことだ。取りまとめのために配布された資料に「CEFRの文字が散見されることに大津教授が疑問を呈した。「CEFR」は語学の熟達度を測る国際的な基準で、下はA1から上はC2まで6段階のレベルが判定される。

「TOEFL iBT」「GTEC」「英検」など異なる7種類(6団体)の英語民間試験で出るバラバラの点数を一つの評価基準にまとめるため、文科省は昨年3月、各試験の点数を「CEFR」のどのレベルにあてはめるかの対照表をつくり、民間試験導入に備えていた。2014年の時点でも「CEFR」を使う考えだったのだろう。

しかし、そもそも、比較できない別のテストの結果を比べ一つの評価基準にあてはめるというのはどだい無理なやり方である。大津教授はこう述べた。

「項目横断的に見え隠れするCEFRを日本の英語教育という文脈に置いたとき、それがどういう位置付けを与えられるのかについて、有識者会議で体系的に論じられたことがなく、これまでの議論におけるとても重要な欠落だと思う」

議論もなく、英語民間試験導入を前提とした「CEFR」という文言が出てくることに違和感を抱いたのであろう。これに対して、反論したのが三木谷氏だった。

三木谷氏 「産業競争力会議の中でも、入試改革をしましょうということがはっきりとうたわれている」「議論は小委員会でしてきた。小委員会はこの委員会の部会で、そこに委嘱されて議論しているので、当然、この委員会で議論したものであると私は認識している」

 

大津教授 「小委員会でこういう議論があったとの報告はあったけれど、それについて有識者会議がどう対応するかという議論はなかった」

 

三木谷氏 「それはおかしいでしょう。有識者会議でその小委員会をやることに対して反対しなかった時点で、その小委員会に任せていたということになる」

 

大津教授 「小委員会で決まったことは、そのまま有識者会議で議論するまでもなく受け入れられるべきものだという認識は、私には全くありません」

かなり激しいやり取りだったが、座長が三木谷氏の意見を重視したため、英語民間試験の導入を前提とした協議会の設置へと話は進んだ。後日、発足した協議会のメンバーが英語試験業者だらけだったのは言うまでもない。もちろん、英語など学習コンテンツの供給に熱心な楽天の三木谷氏やドリコムの内藤裕紀社長らも加わった。

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