ちなみに今回のデモを『CIAなどによる陰謀』と捉える勢力もあり、その可能性は、私も否定できないと考えていますが、50年以上続いてきた革命の歴史は、その産物であり、それを支える核となっている革命防衛隊がハーマネイ師を守る限りは、体制の転覆につながるクーデターには至らないと考えています。ただし、革命防衛隊がハーマネイ師の側に付き、そして忠実にミッションを遂行する限りは、もしかしたらかなりの犠牲が国民・市民に降りかかるかもしれません。
そうなると、イランの国家としてのintegrityは激しく傷つけられ、非常に厳しいボディーブローとして、今後、指導部にとっては大きな試練が訪れることになるでしょう。イランはペルシャ帝国であり、どのような形になったとしても、決して西洋型の体制に変わることはないですが、イランの何らかの形での変革は、確実に西アジア地区、特に中東・北アフリカ地域における勢力地図を根本から変えてしまうことに繋がるため、地域は再び混乱の時代を迎えることになります。
サウジアラビアを盟主とするスンニ派勢力は、シーア派の雄であるイラン憎し!とライバル心を剥き出しにしていますが、イランからのcounter-balanceが作用しなくなった時には、自らの国家のintegrityも一気に失われるかもしれません。
そうなると、昔、英仏の陰謀で勝手に国境線が引かれたサイクス・ピコ協定以前のアラビア半島の状況にガラポンで戻され、新たな支配への渇望が生まれ、アラビア半島はまた終わりのない戦争の時代に突入するきっかけを得てしまうかもしれません。
それをより現実化しそうなのが、お隣イラクでの終わらないデモの存在です。一向に改善しない失業率と、慢性的な電力不足への国民の怒りが、今回のデモのトリガーと報じられていますが、実際には、フセイン政権が打倒された後のバース党の解体がもたらした政治的な拠り所と絶対的なリーダーシップの欠如が生み出した、民族・宗派間の不公平感と、相互不信が、ここにきて爆発したと言えると思います。
12月1日には、首相のアブドルマハディー氏が辞任に追い込まれましたが、事態は収束することはありません。後任選びも、誰も火中の栗を拾うのを躊躇い、非常に難航する見通しで、イラク国内の政治的な混乱と空白が長期化する恐れがあります。そうなると、著しく弱体化したと伝えられているISなど“過激派勢力”が息を吹き返すきっかけとなり、イラクはまた、長く続く戦火に晒されることになりかねません。
そして、今回のデモグループの中で顕著にあるのが、イラクに大きな影響を与えるイランの存在への不満と不信です。実際にどの程度、今回のデモにイランの影響があるのかは不明ですが、イラク国内でのイランへの反感は高まっており、最近では、ナジャフにあるイランの在外公館が放火され、両国の緊張関係も高まっています。
今のところ、イランとイラクが再度80年代のように戦火を交えることはないと思われますが、もしそのような方向に“だれか”が導こうとしているのであれば、私たちは再度、大変な悲劇を目の当たりにすることになるでしょう。イラクの停戦と復興に携わり、イランとも近しい立場にいる私としては、とてもつらい予想です。