国際交渉人が解説。イランとイラクのデモが中東の混乱を招く理由

shutterstock_583292167
 

大規模なデモが半年以上にわたり続く香港。ガソリンの値上げに端を発したイランの反政府デモ。イランの在外公館の放火という事態も招いたイラクのデモと、国際情勢に大きな影響を与えかねないデモが各地で続いています。メルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』の著者で国際交渉人の島田久仁彦さんが、これらのデモの背景や、特にイラン、イラクのデモが中東地域に与える影響を考察し、その混乱に乗じるトルコの動きについて解説しています。

広がるデモの嵐─再び中東諸国に訪れる混乱の時代

世界中でデモの波が止まりません。世界中で報じられている最たるデモの例は、香港で行われている民主化デモで、11月24日の区議会選挙での民意が表明されたにもかかわらず、香港行政府や、北京の中国政府は、デモへの厳格な対応を緩める兆しはありません。

それを受けてか、一旦は沈静化したデモも、再び激化し、一部では暴徒化して警官隊と衝突するなど、非常に危険な状態に陥っています。結果、香港経済を著しく傷つける恐れが現実化しようとしています。

アメリカ政府が香港人権法を成立させ、中国政府に対して人権を尊重する対応を求めたのに対し、北京政府は“内政干渉だ”と真っ向から対立し、その対立は、快方に向かっているように思われた両国の貿易戦争にまで飛び火し、再び世界経済を不安に陥れています。

しかし、このような危ないデモは、何も香港だけで起こっているのではありません。最近まであまり報じられることがなく、多くのメディアのレーダーにもかかっていなかった“危険な香りがするデモ”が中東で多発しています。

その一つが、イランでの反政府デモです。イランと言えば、アメリカによる核合意からの一方的な離脱から、再度高まった緊張を受け、欧米諸国を相手に非常にデリケートな外交戦を繰り広げ、その“緊張”に付け込んだテロ行為や威嚇行為が日々起こっています。

イラン革命以降、長い間、経済制裁下で耐え忍び、非常に高学歴で優秀な人材を輩出し、また核開発にまで手を出すまでになっていますので、イラン国民は最高指導者および政府指導者の下、一致団結して今回の苦難も乗り越えるという体制かと考えてきましたが、先週、ついに国内での微妙な緊張の糸が切れて、今や首都テヘランをはじめ、イラン国内情勢は混乱の一途を辿っています。

そのきっかけとなったのが、今月に入って一夜のうちに予告もなくガソリン価格が3倍強にはね上げられ、国民生活およびイランの経済的な活動を実質的にマヒさせたことだと言えます。仕事が実質的にできなくなった市民が抗議のためにデモに繰り出し、そこに革命防衛隊が反撃して、すでに200名をはるかに超える死者を出しています。

イランと言えば、中東の国でありながら、昔のペルシャ時代の名残なのか、比較的言論の自由が保障されているため、国民・市民による政府批判は日常茶飯事ですし、メディアによる論評も非常に多彩だと言えますが、これまで一度も最高指導者への批判は行われてきませんでした

それが今回、デモ隊の主張の一つに『ハーマネイ師に死を!』という過激なものが含まれ、イランの結束が危機に瀕しています。名指しで批判されたハーマネイ師は、デモ隊に参加する人々を“ならず者”と呼び、革命防衛隊が激しく鎮圧に乗り出しています。今のところ、デモが収束し、普段見られる穏やかで平和なテヘランの日常が戻るまで、しばらくかかりそうです(戻るか否かも不明です)。

print
いま読まれてます

  • 国際交渉人が解説。イランとイラクのデモが中東の混乱を招く理由
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け