九州や岐阜県、長野県を襲った記録的な豪雨により、多くの川が氾濫し、多くの方が避難を余儀なくされています。なかでも、球磨川流域の熊本県球磨村、人吉市、八代市では多くの犠牲者が出てしまいました。八代市で育ち友人知人も多くいるという軍事アナリストで危機管理の専門家でもある小川和久さんは、主宰するメルマガ『NEWSを疑え!』で、熊本県知事が推進してきた脱ダム路線が、気候変動や地域の環境の変化に対応できていたかを問いかけます。そして、治水や水資源の活用というテーマは官邸主導で動かしていくべきと訴えています。
気候変動とダム再考
60人以上の死者・行方不明者を出した熊本県をはじめ、九州各地を襲った豪雨災害は、日本の治山治水が気候変動に対応できていない現実を突きつけました。私が育った熊本県八代市の二見本町では、大規模な床上浸水が発生、復旧に取り組んでいる友人知人の様子が伝わってきました。
河川が氾濫するニュース映像を前に、さしたる根拠はないものの、「ダムがあれば」と思った人も少なくないと思います。今回の惨状を前に、脱ダムの路線を進めてきた熊本県の蒲島郁夫知事も、次のようなコメントを口にしています。
「熊本県南豪雨による球磨川の氾濫を受け、蒲島育夫(注・新聞の誤字です)知事は5日、報道陣の取材に応じ、球磨川支流の川辺川ダム建設計画に反対を表明した過去の対応について『反対は民意を反映した。私が知事の間は計画の復活はない。改めてダムによらない治水策を極限まで追求する』と述べ、従来の姿勢を維持する考えを示した。
蒲島知事は2008年9月、治水目的を含んだ川辺川ダム計画に反対を表明。翌年の前原誠司国土交通相(当時)による計画中止表明につながった。国と県、流域12市町村はその後、ダムによらない球磨川治水策を協議。河道掘削や堤防かさ上げ、遊水地の設置などを組み合わせた10案からダム代替案を絞り込む協議を本格化させる予定だった。」(7月6日付熊本日日新聞)
そのとおりです。脱ダムがひとつの流れとなった2001年ごろからと比べても、地球規模で進む気候変動のスピードは予測をはるかに上回っているのです。関東学院大学名誉教授(河川工学)の宮村忠氏も7月6日付夕刊フジで次のように語っています。
「今回の氾濫で『ダムがあれば』と考えた人は当時の反対派にも少なくないのではないか。問題は記録的な豪雨だけでなく、豪雨に備える体制にもあった」
「人吉周辺は以前は人も少なく、ある程度の氾濫を受け入れて立ち上がることができた。しかし、現在は、交通インフラも整い、施設も増え、氾濫を受け入れる選択肢はない。だとすれば、ダムによる治水が必要だった。それぞれの時代に合った技術を適用すべきだということだ」
事実、民主党政権で工事を中断した群馬県の八ッ場(やんば)ダムは、工事を再開し、試験貯水中だった昨年10月の台風19号で治水効果を発揮しています。
ダムと環境問題については、果てしない議論が続いてきました。大規模建設による環境破壊問題に始まり、水質・水温の変化、土砂の堆積、生態系の変化など、ありとあらゆるテーマが俎上に載せられてきました。
一方、大規模河川の流量調節、大都市圏を中心とする夏場の渇水対策、化石燃料や原子力に頼らない水力発電なども、ダムの棄てがたいメリットとして、一概に否定できない重みを持ってきました。国土の70パーセントが山岳地形の日本です。水資源のコントロールと活用は、国民が意識している以上に重要なテーマだと思います。
ここはひとつ、国土交通省だけの所管事項に詰め込んでしまうのではなく、気候変動、環境問題、エネルギー問題、災害対策といった関連するテーマを総合的に検討し、早急に優先順位を決めてモデルケースを実現するような取り組みを、それこそ首相官邸主導で動かすべきではないかと思います。
人の心だけでなく、自然の変化は避けがたいものです。それに柔軟に対応できるかどうかで、人類の未来が決まってくることを忘れてはならないでしょう。(小川和久)
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