池田教授が嘆く。忖度学者と役人の利権優先でPCR検査が進まない現状

 

感度を100%にすることは不可能である。ウイルスに感染していても、検体の中にウイルスが入っていないことはあり得るからである。反対に、ウイルスに感染していない人の検体からウイルスが見つかることは原理的にあり得ず、検査の過程でウイルスが混入したわけで、きちんと検査をすれば、特異度を100%に近づけることは可能だと思う。高尾山にフジミドリシジミという珍しい蝶がいるが、採りに行っても採れないことはあるが、高尾山に棲息しないルーミスシジミを採りに行って採れるということはあり得ない。採れたら棲息していたということだ。感度と特異度ではそのくらいの違いがあるのだ。

偽陰性の人が歩き回って人にうつすというのも政府のためにする議論だ。そもそも検査をしなければ、10万人の真の感染者も自分が感染者とは思わないので、3万人の偽陰性の人と同じように出歩くわけで、こちらの方が感染リスクは高くなる。PCR検査をやりたくないのは、オリンピックの開催を優先して、感染者数を低く見せるためにPCR検査をやらない理由をでっちあげたので、今更、方針転換するわけにもいかず、しどろもどろな言い訳をしているからだ。

政府や官僚が、間違いだと分かっても改めないことを「無謬性の原則」と呼ぶ。ある政策を成功させる責任を負ったものは、その政策が失敗したときのことを考えたり議論したりしてはいけないという原則である。なんともすごい原則だが、日本の行政を見る限りほとんどの公的組織はこの原則に忠実なように見える。それは税金で成り立っている組織は失敗しても潰れないからだ。私企業であれば、過ちを改めなければ業績が悪くなり、最悪の場合は倒産する。

もう一つPCR検査が進まない大きな原因は厚労省の利権であろう。山岡淳一郎『ドキュメント 感染症利権─医療を蝕む闇の構造』によれば、1875年(明治8年)の文部省報告には「衛生の事項(病院設立、医術開業、薬品検査等の類)は内務省に属し、医学の事項(医学校の設立の類)は文部省に属し…よろしく注意し、その区域を明瞭にすべし」と記されているという。

行政は内務省、教育は文部省という縄張りは、実に明治の初頭に決められたのである。疾病対策は内務省にルーツを持つ厚労省が担当し、大学医学部や研究機関を統括する文科省は介入しないという暗黙のルールは150年近くたった今でも延々と墨守されており、新型コロナウイルスのPCR検査は厚労省の管轄で、文科省の介入は許さないというおかしなことになっている。いくつかの大学の学長がPCR検査を行う用意があると表明しても、遅々として進まないのは、厚労省の利権が壁になっているからである。

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