役立たず接触確認アプリ「COCOA」で判明したIT後進国ニッポンの深刻度

 

コロナ対策に成功した国の一つ、台湾の場合は、オードリー・タンという若き専門家がデジタル担当大臣をつとめ、シビックエンジニアと称される民間のプログラマーと協力し、薬局の場所やマスクの在庫がスマホ上でわかる「マスクマップ」を、短期間でつくり上げた。人口2300万人のうち1000万人が利用したところをみても、政府に対する国民の信頼度が高いことがわかる。

だが実は、日本の場合も、接触確認アプリの作成に立ち上がったのは、民間のプログラマーたちだった。

日本マイクロソフトのエンジニア、廣瀬一海氏は、あくまで個人として昨年3月から開発をはじめた。シンガポールで公開された接触確認アプリを参考に、プログラムを公開して第三者から助言を募るオープンソースで取り組んだところ、多くの専門家が参加した。

ほぼ同時期に、非営利団体「Code for Japan」なども開発を進めていた。IT技術を活用し行政や地域の課題解決をめざす団体だ。台湾でマスクマップを開発したシビックエンジニアの動きに似ており、オードリー・タン氏とも交流がある。

しかし、仕組みの違うアプリが複数出回ると互換性の問題が生じる。廣瀬氏のグループと「Code for Japan」は統一規格の話し合いを進めようとした。

そこに新たな動きがあった。アップルとグーグルが昨年5月20日、接触確認アプリと連携するための仕様を統一し、それを使用する条件として「各国の保険衛生機関が直接アプリを提供する」「1国1アプリとする」と発表したのだ。

当初、政府は内閣官房に「テックチーム」を設けてコロナ対策アプリを担当させていた。テックチームは、民間の複数のグループが開発したアプリを併存させて互換性を持たせようと考えていたようだが、「1国1アプリ」なので、そうはいかなくなった。

そこで、開発を主導することになったのが、「保健衛生」を担当する厚労省である。厚労省は、廣瀬氏らによるオープンソースのソフトウエアをベースにした「COCOA」の開発をパーソルプロセス&テクノロジー社に委託。バグ改修や保守開発をエムティーアイ社に担当させた。

ところが、「COCOA」は昨年6月19日のリリース以降、相次いで不具合が発覚し、国民の不信を招いた。事情を知らない人々は、原型をつくったボランティア開発者にまで批判の目を向けた。そして、その不信が払しょくされないまま、今回の「お粗末」な事態に至ってしまった。

バグが生じるのはアプリの常だが、迅速に修正し、いいものにしてゆく必要がある。コロナ感染が拡大する中で、4か月も役立たずだったのに、担当者が気づかないなんて、常識的にはありえない。

責任は「COCOA」開発を主導した厚労省と、委託されたパーソルプロセス&テクノロジー社、エムティーアイ社にあるのは当然のことである。

パーソルプロセス&テクノロジー社は日本マイクロソフトとフィクサー社に再委託したという報道もあった。不透明な感じは拭えない。持続化給付金事業の委託をめぐる経産省と電通の利権構造を思い起こさせる。

もし、政府のしかるべき地位にに台湾のオードリー・タン氏のような人物がいたら、どうしただろうか。社会のために市民の側から立ち上がったプログラマー、エンジニアたちが最後までモチベーションを失うことなく開発に邁進できるよう、しっかりした環境をつくり、統一アプリを完成させたにちがいない。

アプリをリリースするのは厚労省であっても、開発者である市民エンジニアがリリース後のバグ改修に参加できる仕組みを整えていれば、4か月も重大な障害に気づかないということはありえないだろう。

しかし、ないものねだりには違いない。どの省庁にも、デジタル人材は不足している。政界を見渡しても同じことだ。なにしろ、平井卓也氏がデジタル改革の担当大臣をしなければならないのが、現実なのだ。デジタルに詳しいといっても、自民党という狭い世界での話だ。

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