「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」と言われますが、その「歴史」にはかなりの嘘や誤解もあるようです。今回の無料メルマガ『クリエイターへ【日刊デジタルクリエイターズ】』で編集長の柴田忠男さんが取り上げているのは、元通産省官僚がそんな内容を綴った一冊。100本のコラムの中には、誇らしげな気分になれる「日本が世界に果たした貢献」も記されています。
偏屈BOOK案内:八幡和郎『歴史の定説100の嘘と誤解 世界と日本の常識に挑む』
『歴史の定説100の嘘と誤解 世界と日本の常識に挑む』
八幡和郎 著/扶桑社
この本は、世界史・日本史の広い分野の中で歴史の定説とか常識について、著者が「間違っている」と思った100テーマを、選び出してまとめたものだ。
歴史でもファンの関心が高いのは政治・外交史である。通産省の官僚であった著者からすれば、「定説」にはリアリティがないものが多いという。
定説が陥っている勘違いの原因は、文献学者も考古学者も、たまたま存在する確実な証拠にこだわり過ぎているからだ。歴史はさまざまな分野の専門家が知恵を持ち寄って、切磋琢磨すべき分野である。
だがこの本は、一人の視点でさまざまなテーマを見ることも大事だと欲張った著者によるもので、一つのテーマに2ページ、大事なところは太字、お気楽に読めるからおススメだ。
なかでも気になったいくつかを紹介する。「歴代米国大統領の通信簿をつけてみたら」では、44人全員をAからEの5段階で評価している。
トランプは現職(当時)だから評価外。アメリカの偉大な大統領は誰かと問えば、ワシントン、ジェファーソン、リンカーン、ウィルソン、フランクリン・ルーズベルトを挙げることが伝統的に多い。有名人であり、戦争を始めた大統領ばかりである。
著者は『アメリカ歴代大統領の通信簿 44代全員を5段階評価で格付け』という本を書いたこともある。最高評価としているのはワシントン、ポーク、リンカーン、セオドア・ルーズベルト、フランクリン・ルーズベルトの5人である。
日本ではほぼ無名の11代ジェーム・スポークは、カリフォルニアの買収をはじめ、アメリカの版図を広げ、連邦の財源確保や関税引き下げなどを実現した人。セオドア・ルーズベルトは力を背景にした「棍棒外交」で現実的成果を十分に上げた人。
フランクリン・ルーズベルトの、ニューディールに類する政策は各国でやっているから過大評価はすべきではない。ソ連を甘く見たり中国に肩入れしたり、日本にとっては良くない大統領だったが、政治的能力の高さでアメリカの厳しい時期を乗り切ったことは、アメリカの立場に立つなら評価すべきである。
「日本の高度成長が世界を共産主義から守った」。これとはどういことか。日本が西ドイツを抜いて世界2位の経済大国になったのは1968年、池田勇人首相による所得倍増計画の結果だった。その後42年間、2010年に中国に抜かれるまで2位の座を守った。
この戦後日本の成功は世界史的に大きな意味がある。世界革命を起こさなくとも、西欧的な民主主義と市場経済のもとでまっとうな国造りをしたら、欧米先進国追いつくことが可能だというモデルを具現化したことだ。
「この日本モデルは、韓国や台湾のような旧日本領で容易に模倣され成功しました。そして、マレーシアやタイが続き、ついには中国がそれに続き、アジアは世界経済のセンターとなりましたが、すべては、日本モデルの応用だったわけですから、戦後日本は世界史に貢献をしたわけです」。誇れる話だ。
編集長 柴田忠男
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