刑務所の面会か。丸川大臣「五輪食事会場に監視員とアクリル板」の不見識

rp20210629
 

開幕まで1ヶ月を切ったものの、先日確認されたウガンダ選手団2人以外にも、来日した関係者4名が新型コロナウイルスに感染していたことが発覚するなど、混乱の兆しが絶えない東京五輪。丸川五輪相は感染対策の一環として、食事会場にアクリル板を設置した上で監視員を配置し、選手や報道陣に会話を控えてもらうとしていますが、果たしてそれは「悪手」とはならないのでしょうか。今回のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』では著者で米国在住作家の冷泉彰彦さんが、「このアイディアはかなり難しい」として、4つの問題点を指摘。さらに英語を話さない人にしか監視員を任せられない理由を挙げるとともに、その導入が日本にもたらす弊害を記しています。

政治経済からエンタメ、スポーツ、コミュニケーション論まで多角的な情報が届く冷泉彰彦さんのメルマガ詳細・ご登録はコチラ

 

五輪の食事会場に「監視員配置して会話禁止」、どう考えても不可能

五輪担当の丸川珠代大臣は5月13日の国会(参議院の内閣委員会)で、東京五輪・パラリンピックの新型コロナウイルス対策として、「選手や大会関係者に求められる行動管理や感染予防策の実効性を高める」ために、「監視員」を設置することを表明したそうです。

通信社等の報道によれば、丸川大臣は「息苦しい思いをすることになるかもしれないが、お互いのコンディションを守ることにつながる」というコメントもしています。尚、同じ報道によれば、選手村や報道関係者の食事会場ではテーブル上にアクリル板を設置し、会話を控えてもらうなどの対策を徹底する方針だそうです。その上で「こうした場所に監視員を配置する」計画だと報じられています。

このアイディアですが、かなり難しいと思います。4つ指摘したいと思います。

1点目は、欧米だけでなく、アジアやアフリカも含めたグローバルな社会では、食事と会話を切り離すことはできないということです。家族やカップルだけでなく、友人や知人同士での食事もそうですし、特にスポーツ選手がチームメイトや、コーチ、スタッフなどと食事をする、あるいは対戦相手と食事をするような場合にも、会話を楽しみ、お互いを知る社交の機会として食事というのは位置づけられています。

例えば、「個食」であるとか、「食事中は私語禁止」といった文化は皆無ですし、そもそも五輪への参加という中で、選手村での交友を広げることは、多くのオリンピアンに取って極めて重要な目的になっています。とにかく、食事中の会話禁止といった「感染対策」については、事前に詳しく説明して徹底的に納得させるにしても、そもそも納得させるということが困難を極めると思います。

一部の地域では、食事の場面というのは食事を共にする人同士のプライバシーだという考え方もあります。宗教的な理由から、食事の様子を撮影されたり、他人に覗かれることへの強い抵抗感を持つ場合もあり、そもそも「監視員」などという発想は成立しないかもしれません。

2点目ですが、アジアはともかく、アメリカやEUでは、コロナ感染拡大を阻止するために、飲食店における「会話禁止」「マスク会食」「アクリル板」といった対策が取られたことはないと思います。少なくともアメリカではほぼ皆無です。

勿論、飲食店の屋内営業を禁止したことはありましたし、州により詳細は異なりますが、屋内営業を許可した場合に、定員の50%とか25%といった規制がされた時期はありました。また、アクリル板については、スーパーマーケットのレジに設置されたことはありました。

ですが、飲食店における「会話禁止」などというのは、そもそも「それでは飲食店に行く意味がない」ことになります。更に「食べる時はずらして、会話の時は戻す」というマスク会食などという習慣は、全くありません。保健行政や専門家が推奨したこともありません。

アクリル板に至っては、仲間同士が会食する場合に、その仲間同士を隔てるアクリル板などというのは、少なくともアメリカ人は許容しないと思います。と言いますか、そもそも見たことはないわけで「刑務所の接見か?」というような不満が出てくる可能性は十分にあります。

政治経済からエンタメ、スポーツ、コミュニケーション論まで多角的な情報が届く冷泉彰彦さんのメルマガ詳細・ご登録はコチラ

 

print
いま読まれてます

  • 刑務所の面会か。丸川大臣「五輪食事会場に監視員とアクリル板」の不見識
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け