退職代行サービスに潜む危険なワナ。悪徳業者にダマされぬための注意点

 

一方で、もっとも対応できる領域が限られているのが「民間業者」である。先ほど弁護士事務所は「あらゆる交渉ができる」と説明したが、厳密にはこの「交渉」は法律事務に該当し、本来は弁護士、もしくは弁護士法人しかおこなえないという決まりになっている。

弁護士法第72条

 

弁護士または弁護士法人でない者が、報酬を得る目的で法律事件に関し、代理・仲裁・和解その他の法律事務を取り扱うことはできない

したがって、弁護士資格を持たない民間の退職代行業者ができることは、あくまで「使者として退職希望者の退職意志を伝える」という一点のみであり、それ以外の業務引継ぎや未払金支払、有休消化といったもろもろの退職条件交渉をおこなうことはできない。もしやってしまえば、「非弁行為」に当たり、違法となってしまうのである。

しかし、民間業者の中には「使者」としての役割を超え、本来は違法な条件交渉までやってしまう悪質業者が存在する。彼らのような法的に代理権限がない者が交渉した場合、たとえそれが善意によるものであっても、交渉内容や退職そのものが無効になるリスクがあるのだ。また会社側が良かれと思って提示した有休取得や退職条件交渉を取り持つこともできないため、結果的に改めて弁護士に依頼しなければならなくなったケースがあったりするなど、トラブルに至る事例も報告されている。

なお、民間業者の中には「弁護士監修だから安心!」と宣伝している者がある。一見合法的に見えるが、その場合、監修弁護士が退職代行実務にいかほど関わっているかがカギとなる。弁護士資格を保持した本人が交渉実務を担当してくれるなら何の問題ないが、当該弁護士が単に名前を貸しているだけで、実質的に関与していないケースの場合、代行業者が交渉をおこなえば非弁行為であることには変わりがない。そうなれば当然違法であり、トラブルの原因となってしまう可能性があることに留意する必要があるだろう。

退職代行業者が非弁行為の交渉に介入することで発生するトラブルを回避するため、一部企業では「退職代行業者とは交渉しない」と宣言し、仮に代行業者から申出があっても「本人の意思かどうか不明なため、本人から直接の申出でなければ応じられない」という形で対応しているケースもあるようだ。そうなると民間業者では交渉ができず、結果的に利用者が最も避けたい「退職希望者本人に、会社から直接連絡がいく」という事態に繋がってしまうリスクがある(退職の申し入れそのものは拒否できないので、あくまで民間業者が介入できない「退職条件交渉」に持ち込むという形である)。

「労働組合」が母体の代行業者はその中間にあたる。労働組合は法的に「団体交渉権」を持つため、民間業者では不可能な企業側との直接交渉、具体的には、退職日の調整や有休消化、未払金の支払要求といった基本的な要求は対応可能なのだ。逆に、会社側が労働組合の交渉要求を拒否した場合、逆にそちらのほうが違法(不当労働行為)となってしまうため、交渉においては強い立場にあるといえる。

巷には退職代行サービスについて解説・案内するWebサイトが乱立しているが、実はこの「労働組合型の退職代行サービスが企業側と交渉可能な範囲」についてはかなり不正確なところが多く、注意喚起の必要性を痛感している。

たとえばとあるサイトでは「未払いの給与請求や残業代請求など賃金の交渉が認められているのは、法的資格を有する弁護士・法律事務所が運営する退職代行サービスのみ」と書かれているし、また別のサイトでは「企業側にパワハラ等の損害賠償を請求したい場合や、逆に企業側から損害賠償を求められた場合には対応できない」といった主旨の説明がなされている。しかし、これらの解説はいずれも誤りだ。

中央労働委員会によって「損害賠償請求権についての交渉は義務的団交事項」であると判断された例(※)があるため、労働組合による退職代行においても、損害賠償請求を含めた交渉は可能なのだ。ただし、組合自身が原告となって民事訴訟提起や労働審判申立をできるわけではないから、限界はある。その場合には組合員個人は弁護士を代理人に立てて、裁判所での各種申立てをおこなうことになろう。

(※ 組合員の健康被害に関する損害賠償請求権についての交渉は義務的団交事項であり、損害賠償請求であることや、別件で訴訟係属中であることを理由とする団交拒否は違法であるとの判断

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