最近、話題になった全国学力・学習状況調査の「家に本が多い家庭の子供ほど平均正答率が高くなる」という結果。しかし、この結果について「なるほど、本を増やせば子供の正答数が変わるんだ」と思うのは早合点です。今回の無料メルマガ『「二十代で身につけたい!」教育観と仕事術』では著者で現役小学校教諭の松尾英明さんが、その要因について独自に分析しています。
家の本を多くすれば学力が向上すると言えるか
研究結果における、相関と要因の話の続き。
Xを変えることでYに影響を与える場合、XとYには相関があるという。ただし、多くの研究において、XそのものがYに影響を与えている要因といえるかどうかは、この時点で判明しない。前号では、ここまで書いた。
逆に言えば、教育効果に関するニュースは、かなり疑ってみた方がいい。
・家で〇〇をしている子どもは学力が高い
・○○をすると落ち着きのない子どもになる
等々、世間に流布されている情報は、相関と要因がごっちゃになっている。出す側はセンセーショナルに書きたてたいから、わざとそのように大袈裟に書く。それらに確かに相関はあるが、要因がそれそのものとは限らないのである。
データはデータとして、それで正しいのである。例えば有名なところだと、以前に文科省が調査した「親の年収が高いと学力が高い」という報告結果がある。まず前提として、平均はあくまで平均であるため全員がそうではなく、かつ平均の妥当性も認められている点である。つまり、親の年収が高いが学力がとても低い、あるいはその逆パターンもあるが、その数は少ないということである。
ずっと以前も紹介した『学力の経済学』(中室牧子著)で、この点については詳細に述べられている通りである。
この本の中に「東大生の親の平均年収は約『1,000万円』」という項目がある。ここのデータからわかることは
・X「親の平均年収が高い」とY「東大生」
に相関があるという点だけである。
また最近話題になったものだと、全国学力・学習状況調査の結果で「家に本が多い家庭の子どもほど平均正答率が高くなる」というものが挙げられた。
ここの
・X「家の本の数」とY「平均正答率」
も、あくまで相関があるというだけにとどまる。
これを「要因」と早合点して誤解し「家の本の数を増やせば子どものテストの点が上がる!」と考えた人がいるとする。もしそれを信じているならば、その人がすべきことは、子どもの学力調査までにひたすら家の本の数を増やすことである。
結果はどうなるか。当然、それだけでは何も変わらないはずである。「家の本の数」の裏に秘められた要素を探り、そこからテスト正答率との直接要因を特定していく作業が必要である。