プーチンを激怒させた「ウクライナ侵略の引き金」NATOの生い立ち

 

平和のためのパートナーシップ

NATOの性格が冷戦終結後、瞬く間に変貌したことは間違いない。旧共産圏どころか、旧ソ連の中央アジア5カ国までNACC陣営に取り込んでしまった。

他方、NATO側もこのことを懸念していた。事実、当初、NATOはこれらの国を、「協力パートナー」として位置づける。

ところが、当の東中欧諸国がNATOへの直接加盟を求めるようになった。真っ先に名乗りを上げたのは、ポーランド、チェコスロバキア、ハンガリーの3国。

続いて、ソ連を離脱したばかりのバルト三国も、対ロシア政策の一環として、NATOへの参加の意向を示す。ただ、NATO側は、当初、東方拡大に慎重だった。

たとえば、1991年10月にチェコスロバキアのハヴェル大統領から直訴を受けた時も、当時のブッシュ(父)大統領は、NATOと旧ワルシャワ諸国とがNACCのような“緩やかな”関係を保つことが良いとし、NATOの直接加盟は、「現時点で望ましくない」と拒否した。

それにもかかわらず、旧共産圏の国々は再三にわたり、NATOへの直接加盟の意向を崩さない。

そのようななかで、NATO側が提案したのが、「平和のためのパートナーシップ」(PEP)と呼ばれるものであった。PEPへの参加の召集は、旧共産圏国だけでなく、全欧州安全保障協力会議(CSCE)の参加国すべてに発せられた。つまり、欧州の非NATO諸国すべてが対象となった。

PEPへの参加を希望する国は、NATOとの間に以下の取り決めをしなければならない。

第一に、すべての参加国に共通する「枠組文書」をNATOとの間で調印する。第二に、希望国は、協力希望事項を盛り込んだ、「申請文書」をNATOへ提出し、これに基づき、個別の「パートナーシップ・プログラム」がNATOとの間で調印される。

しかし、このパートナーシップ・プログラムの内容は、各国により異なっていた。国防計画や国防予算の立案、軍の民主統制、国連・CSCE下での活動への貢献、NATOとの合同訓練・演習や平和維持活動の強化、捜索・救護活動や人道活動能力の強化などがあった。

さらに長期的な視点として、NATOとの軍事的な作戦を行うようにするための能力の改善まで盛り込まれた。要は、参加国のニーズ次第でどのようにもなるものであった。

ただ、PEPの参加はNATO正式な加盟ではないのだから、北大西洋条約の第5条「共通防衛」の保障は得られない。

しかし参加国はベルギーのブリュッセルには少なくとも連絡機関を置くことができ、NATO本体への加盟に近づくことになる。そこで、次々とPEPへ加盟する国が出てきた。

1994年2月3日のエストニアを皮切りに、ロシアでさえ、「NATOからの度かさなる説得」により、6月22日に「枠組文書」に調印し、21番目の参加国となった。

さらに、冷戦期に中立政策を取ったスウェーデン、フィンランド、中立国のオーストリアだけでなく、永世中立国のスイスまでもが、この枠組文書に署名したのだ。

~つづく~

参考文献一覧

● 佐瀬昌盛『NATO 21世紀からの世界戦略』文藝春秋(文春新書)1999年
● 「NATOの『自分探し』とロシアのウクライナ軍事侵攻の関係」 ビデオニュース・ドットコム
● 孫崎享「【ウクライナ危機】NATO拡大を止めることが解決の道(1)」 JA.com 2022年3月14日。
● 孫崎享「【ウクライナ危機】NATO拡大を止めることが解決の道(2)」 JA.com 2022年3月15日
● 森原公敏『NATOはどこへゆくか』新日本出版社(新日本新書)2000年

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伊東 森(いとう・しん): ジャーナリスト。物書き歴11年。精神疾患歴23年。「新しい社会をデザインする」をテーマに情報発信。 1984年1月28日生まれ。幼少期を福岡県三潴郡大木町で過ごす。小学校時代から、福岡県大川市に居住。高校時代から、福岡市へ転居。 高校時代から、うつ病を発症。うつ病のなか、高校、予備校を経て東洋大学社会学部社会学科へ2006年に入学。2010年卒業。その後、病気療養をしつつ、様々なWEB記事を執筆。大学時代の専攻は、メディア学、スポーツ社会学。2021年より、ジャーナリストとして本格的に活動。

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