最初に書いたように、そもそも、岸田首相の「核廃絶」本気度はすこぶる怪しい。『核兵器のない世界へ 勇気ある平和国家の志』なる著書がよく読まれていると聞くが、それなら「核」についての態度をもっと鮮明にすべきではないか。たとえば、原発に対する姿勢だ。
実のところ、岸田首相は原発再稼働に積極的なのである。5月13日、日本テレビの番組で「原発については安全性を前提とした再稼働。これはしっかり進めていかなければならない」と述べている。
福島第一原発の事故は、原発の電源が切れただけで、時間、空間をこえた放射能の無限リスクにつながるという戦慄すべき事実を、人類に突きつけた。原子力が低コストというのはウソで、捨てる場所さえない核のゴミが地球にたまり続けることもよくわかった。
それでも、日本政府が原発にこだわるのはなぜなのか。原発の技術はいつでも核兵器製造に転用できるからではないのだろうか。
2011年8月16日、テレビ朝日の「報道ステーション」に出演した当時の自民党政調会長、石破茂氏は次のように語った。
「日本以外のすべての国では、原発は核政策とセットだ。核兵器を持つべきではないが、日本が核爆弾をつくろうと思えば1年以内につくれるというのが一つの抑止力となる。それを放棄していいのかどうかを突き詰める議論が必要だ」
石破氏は軍事オタクといわれるが、極端にタカ派というイメージはない。それでも原発を持つ意味を、いつでも核爆弾製造できるという「抑止力」に求めようとしていた。これは本音の部分で自民党に伝統的に根付いている感覚ではないか。岸田首相も例外ではないだろう。
そもそも、日本に核兵器があれば、中国から攻撃されるリスクが減るというのは本当だろうか。
日本が核兵器の製造に取りかかったとなれば、中国は黙っていないだろう。「中国の安全保障に対する脅威を取り除く」と言って攻撃を仕掛けてくる恐れすらある。
たとえ、日本が核兵器を製造できたとしても、中国のその数量に追いつくはずはなく、万が一撃ち合った場合には、面積の狭い日本はあっという間に破壊されるだろう。核武装による平和という発想こそ「お花畑」的と言わざるを得ない。
8月のNPT会議に出席して、岸田首相はどのような発言をし、どのように行動するつもりなのだろうか。「核兵器のない世界へ」という岸田首相の理念がホンモノかどうかが問われている。
この記事の著者・新恭さんのメルマガ
image by: 首相官邸