世襲議員「増加」の悪影響も。導入から30年を迎える小選挙区制の功罪を総括する

 

後ろ向きでしかない「中選挙区制の復活」議論

私は全体として細川説に近い。

第1に、1993年に小選挙区制を軸とする選挙制度を選択したことは正しかった。88年に発覚したリクルート事件や92年の金丸信の闇献金・金の延べ棒退蔵事件など自民党の超長期単独政権下での金権腐敗ぶりは止まるところを知らず、これを断ち切るには1選挙区に自民党が異なる派閥の複数を立候補させて競い合わせることのできる中選挙区制を改変しなければならないというのは、当時の世論の大勢であったし、実際にやってみても細川(2)が言う通り「その面で状況は大きく改善された」のであって、中選挙区制のままがよかったとか、それに戻すほうがいいとかいう議論は基本的に退嬰的である。

もちろん、この世にこれが最善と言い切れる選挙制度など存在するはずもなく、その時代や政治局面の課題に即した「よりマシ」な制度を選択するしかない。それがこの時は小選挙区制だったということであり、当時もさんざん議論されたように、それにはまたそれなりの欠陥もあった。その最たるものは、完全小選挙区制にした場合、小さな得票数の差が大きな議席数の差を生みやすく、政権交代が起こりやすくなる反面、政局は不安定になりがちであること、また大政党には有利でも少数政党には圧倒的に不利で、存続さえおぼつかなくなることだった。

そこで、完全小選挙区制の持つ劇薬性を緩和するため、何らかの形と程度で比例代表制と組み合わせることが必要になる。ドイツ、ニュージーランドなど世界で数カ国が採用している小選挙区比例代表併用制は、比例代表の政党別得票で全体の議席配分が決定され、各党はその議席に小選挙区での当選者を順に割り当てるので、これはあくまで比例代表制の一種。それに対して日本はじめ韓国、台湾、フィリピン、タイ、イタリア、ロシアなど多くが採用する小選挙区比例代表並立制は、小選挙区と比例代表とで別々に議席を割り振るもので、従って小選挙区と比例代表の議席比率をどう定めるかで性質がどちらかに傾く。

フィリピン下院は小選挙区228議席:比例代表52で、ほとんど小選挙区制に近い。タイは375:125、ロシア下院は225:225。日本は、細川が別のところで語っているように「小選挙区と比例代表を250議席ずつにする案を主張したが、残念ながら小選挙区は自民党案の300議席になった」ため、比例代表の性格がやや強めの制度と言える。

従って、選挙制度改革から30年を問い直す場合には、単に小選挙区制と中選挙区制のどちらが良かったかという大雑把な話だけでなく、併用制の是非や、さらには日本独特の小選挙区落選者の比例復活という仕組みの功罪(細川(5)と河野(3))などを含めた、突っ込んだ検討が必要になるだろう。

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