Google日本元社長が暴露する、日本の家電産業が凋落したこれだけの要因

 

品質へのこだわりが仇に。日本の家電が競争力を失った要因

産業競争力の低下には、外的要因と内的要因がありますが、まず、外的要因について五つに分けて整理します。

一つ目は、あらゆるモノがインターネットと繋がるIoT(Internet of Things)の時代を迎え、家電の定義が変わってしまったことです。特に、テレビやオーディオといったいわゆる「クロモノ」の世界は、デジタル家電に完全に置き換わり、中でもスマホは手軽な万能汎用デバイスとなりました。従来、カテゴリ分けをして量産していた専用機の一つ一つがすべてスマホに統合されたと捉えれば、以前に4つのTで整理したMELTにあたります。

それに伴い、家電産業の付加価値は、ハードウェアやデバイスから、ソフトウェアやクラウド側のプラットフォーム、サービスに移行しました。これは、4つのTのSHIFTにあたります。そして「クロモノ」で起きたことは、冷蔵庫、洗濯機、エアコンといった「シロモノ」の領域にも限定的に及んできています。また、この流れは家電産業に留まらず、自動運転する車、省エネする家など、他の分野でも同じです。さらに今後はAIの活用も拡大して、すべての工業製品がインテリジェント化していきます。あらゆるデバイスがクラウドとも連携して、何がしかの知能を持つようになるのです。

日本人は「木を見るのは得意だが森を見るのが苦手」と昔からよく言われてきました。上記のSHIFTは、まさに家電屋としてデバイスの方ばかりを見てきて、クラウド側が弱点である日本の家電メーカーが出遅れる主因となりました。すべてがつながるデジタルの時代には、全体を俯瞰する力、特にクラウド側での実力が勝敗を決めるのです。

二つ目は、作り方が変わったことです。日本の製造業は、自前主義の垂直統合型のスタイルで世界最高性能・最高品質の工業製品を生み出してきましたが、家電製品もデジタル化に伴い、パソコンなどと同じように水平分業型が主流となりました。アップルやグーグルが開発したソフトウェアや製品仕様に基づいて、韓国や中国などアジアのEMSが量産するという役割分担が定着したのです。自前主義や垂直統合型の物づくりにこだわる日本家電メーカーは、ここでも出遅れてしまいました。

三つ目は、「ムーアの法則」やデジタル化による過当競争で製品のコモディティ化が進み、価格が下がってライフサイクルが極端に短くなったことです。家電製品は、もともと耐久財の側面が強かったのですが、デジタル家電は、耐久財というよりも消耗財の側面が強くなり、品質の高さよりも買い替え需要を促す価格帯や新製品投入の頻度が決め手になるようになりました。携帯市場でも格安携帯が普及し、中国のシャオミ(Xiaomi)やオッポ(OPPO)などの新興ブランドが一気に台頭するようになりました。ここでも、日本メーカーの品質への過度なこだわりがコストダウンの妨げになり、なかなか切り替えができませんでした。

四つ目は、半導体メモリの進化によって、製品からメカニカルな部分が消失してしまったことです。ソニーのウォークマンやカムコーダーなどでは、記録媒体にテープを使っていたような時代、メカトロニクスとも呼ばれた、メカニカルな部分を電子制御する機構を小型化することで、職人芸的な技術を磨き差別化してきました。

しかし、テープからCDやDVDなどのリムーバブルディスクへ、リムーバブルディスクからハードディスクへ、ハードディスクからシリコンディスクへと移行するにつれて、その得意技を大いに発揮してきたメカトロニクス部分がほぼ消失してしまいました。半導体メモリが主流になることによって、ソニーのお家芸ともされた、誰よりも薄く小さく軽く仕上げる、という形で差別化を図ってきた製品を、誰でもが作れるようになってしまったのです。ウォークマンにカセットテープを使っていたような時代、試作機を水を張ったバケツに沈めて、泡が出たら、まだその分小さくできるだろう、と作り直しを命じられたようなエピソードは、すっかり昔話となりました。

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