ホンマでっか池田教授がパプリカやミニトマトを栽培しながら気づいた「人間の思い込み」

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庭やベランダで植物を栽培する人にとって、避けられないのが害虫への対処。無農薬で野菜作りをする場合はなおさらで、CX系「ホンマでっか!?TV」でおなじみ、虫好きとしても知られる池田教授でも駆除しないわけにはいかないようです。今回のメルマガ『池田清彦のやせ我慢日記』では、パプリカの栄養価は皮より、中の種やワタの方が高いのかもしれないと考えた理由や、生物は適応度が大きくなるように進化するという学説への疑念など、趣味の野菜作りで、害虫たちと対峙しながら気づいたり考えたことを綴っています。

野菜栽培はやっぱり面白い

今年の夏野菜はミニトマトとパプリカとピーマンとトウガラシだけにして、他の野菜は作らなかった。いろいろな野菜を作るのは面白いのだけれども、コストパフォーマンスという点からは得意な野菜だけを作った方が収量は多い。

5つあるプランターにはミニトマトを植えて、丸いプラ鉢に「鈴なりパプリカ りんりん」と「鈴なりパプリカ らんらん」を1鉢に1つずつ植えた。これはミニパプリカで、りんりんは赤く熟し、らんらんは黄色くなる。この2つは去年成績が良かったので、庭にも2つずつ植えた。

さらに庭にはミニトマトを4つ、ピーマン2つ、タカノツメ2つ、「ガブリエル」という大きくなるパプリカの赤と黄を1つずつ、「香辛子・ハバネロインフィニティ」「姫トウガラシ」「たくさんとれて甘いパプリカ」を1つずつ植えた。園芸品種の名前は、適当に付けるのだろうが、特に、ミニトマトやパプリカの最近の品種名はおちゃらけているのが多いようだ。種苗会社が改良品種に勝手に名前を付けるのだろう。

ミニトマトについては前回書いたので、今回はパプリカ、ピーマン、トウガラシについて書こう。自宅の菜園では、これらの3種はミニトマトに比べて害虫があまり付かないのがうれしい。農薬は全く使わないので、害虫は目視で見つけ次第殺す(ミニトマトの収穫期がほぼ終わる頃付くクロメンガタスズメの幼虫だけは殺さない)。

自宅のミニトマト、パプリカ、ピーマン、トウガラシに付く共通の害虫はオオタバコガ(タバコガかもしれないが区別がつかない)の幼虫である。実(み)に小さな穴が開いているなと思って割ってみると、中の種やワタがすっかり食べられて糞に化けていて、中に丸々と太った幼虫がちゃっかり鎮座している。皮はあまり好みではないようで、外見は小さな穴が開いているのを除けば、正常な実と変わらない。

 

人間は、ピーマンやパプリカは、通常皮だけ食べて中身は食べないが、虫が好むということはきっと種やワタの方が栄養価が高いのだろう。実際調べてみると、ワタにはピラジンという血栓予防効果のある成分が多く含まれ、種にはカリウムが豊富だという。ただ苦いので、生で食べるのには向いてない。

小さい実に入ったオオタバコガの幼虫は暫くすると中身を食いつくし、実から脱出して別の実に潜る。だから、大きい穴と小さい穴が実に開いているものは、割っても、中身は糞だけで、もぬけの殻だ。最初の実を食いつくし次に移る時は無防備で、野鳥に食われる危険があるので、最初からなるべく大きな実を探して潜ればよさそうだが、そういうことはしないようだ。

虫は我々から見ると合理的とは思われない習性を持つものが多い。例えば、今年は10月になってからサンショウにアゲハの若齢幼虫が沢山付いていたが、不思議と葉が沢山ある大きな木よりも、貧弱な若木を好むようだ。10月の半ばに見つけたアゲハの若齢幼虫も貧弱なサンショウに20頭近くも群れていて、木に付いている葉っぱの半分くらいはすでに食われた後だった。

庭の反対側にあるもう少し大きなサンショウの木には全く幼虫がいない。母蝶は卵を産む時に、この木ではどのくらいの幼虫を養えるかといった計算はしないようである。女房は「これじゃ皆餓死してしまうよ」と、せっせと幼虫を大きなサンショウに移植していたが、1週間もしないうちにすべていなくなってしまった。野鳥に見つかって食べられてしまったのかしら。

そんないい加減なことをやっていても種は滅びないのだから、それでいいのだろう。動物の行動はすべて適応的にできているというのは、きっと人間の思い込みだな。オオタバコガの幼虫もガブリエル(大きなパプリカ)に潜り込んだものと、小さなパプリカやミニトマトやトウガラシに潜り込んだものでは親になれる確率が違うので、もしこういった習性に少しでも遺伝的因子が関与しているならば、自然選択の結果徐々に後者は淘汰されていなくなってもよさそうだが、そうならないところを見ると、生物は適応度が大きくなるように進化するという学説は眉唾かもしれない(最近『人生に「意味」なんかいらない』フォレスト出版という題の本の一章を割いてそういう話を書いた。2023年11月20発売)。

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