生き延びる方法その2：グルメモールに転換する
2007年に、北京市の西単に大悦城（ダーユエチャン、JOY CITY、https://weibo.com/xdjoycity）という変わったショッピングモールがオープンしました。西単は、王府井、東単と並ぶ繁華街ですが、庶民的なにおいのする場所です。この大悦城は11階建てですが、3フロアがすべて飲食店なのです。これは当時、非常識だと言われました。
なぜなら、西単には近所に堅苦しくない飲食店がたくさんあり、わざわざショッピングモールの飲食店で食事はしないと考えられていたからです。また、ショッピングモールの家賃は、一般の路面店よりも高くなります。ショッピングモールがプロモーションを行い集客を図るからで、割高というわけではありませんが、利が薄い飲食店には負担が大きいのです。大悦城は契約料を下げてまで、飲食店を取り込みました。
これがあたりました。デイリークイーンのアイスクリームがヒット商品となり、平日まで含めて1日に平均2,000個以上が売れるようになり、集客に大きな効果を上げたのです。西単で遊んでいる若者たちが、デイリークイーンのアイスクリームを食べるために、わざわざ大悦城の中に入ってくるようになりました。
2010年にECが普及をし始めると、一般小売店の業績が苦しくなってきます。次々と小売店が撤退をし、飲食店が増えていくようになり、大悦城の性格が大きく変わっていきました。
さらに2013年頃から密室脱出ゲームが流行します。セットとして組まれた空間の中に入って、脱出をするためのアイテムを発見したり、パズルのような謎を解いたりする遊びです。このような体験型ゲームやクレーンゲームなどが人気になります。
また、2019年から2020年にかけて、ファストファッションの崩壊が起こります。若い女性向けに、安く最新のファッションを提供するフォーエバー21、エスプリ、トップショップなどの国際的なブランドが中国市場から撤退をします。これもECの影響でした。SHEIN（シーイン）を筆頭に、ECでD2C（Direct to Consumer）の手法で、流行のファッションを低価格で、どこよりも早く提供することから、リアルタイムファッションと呼ばれるECが台頭し、実体店舗中心のブランドはついていけなくなってしまったのです。
これにより、現在の大悦城は小売：飲食：体験＝1：1：1になっています。多くの人の認識では、大悦城はショッピングモールではなく、中国によくあるグルメ施設「美食城」の大規模なもので、ついでに小売店と遊び場があるという場所になっています。
これをショッピングモールと呼ぶべきかはもはや疑問ですが、最初から商圏の消費者のニーズに適合することを考えてきた大悦城は、現在のショッピングモールのあるべき姿を示しています。
生き延びる方法その3：体験型小売店にシフトをする
これは各モールが戦略的に行っていることではなく、自然にそうなったということだと思いますが、「最近のショッピングモールは眼鏡屋と薬屋ばかりになった」という話をよく耳にします。実際、ちょっと寂れたショッピングモールにいくと、確かに眼鏡屋と薬局が複数あるのが目につきます。いずれも共通しているのは、自分が行かないと買い物ができないタイプの小売店です。
中国の薬局の原型になっているのは漢方薬店です。漢方薬店というのは薬局とは違い、漢方医がいて診察をしてもらうのが基本です。お腹が痛い、頭痛がするという急性症状にも対応してもらえますが、本来は定期的に通い体質を診断してもらい、弱いところを補う漢方を処方してもらいます。このような習慣があるために、西洋薬を置いている薬局であっても薬剤師に症状を相談する人が少なくありません。そして、勧められた薬を買って帰ります。
コロナ禍により、このような薬局もオンライン化が始まっています。ビデオ通話で薬剤師に相談をして、薬を宅配してもらうというものですが、普及はこれからになります。まだまだ多くの人は自分で薬局に行った方が安心できる、早いと感じているようです。眼鏡もレンズの度を測定してもらう必要があり、眼鏡フレームが似合うかどうかはオンラインではなかなかわからないため、やはり自分が行かないと話になりません。
これは、日本の商店街の状況とよく似ています。日本の商店街も、一般の小売店はシャッターが降りていて、開いているのは、ドラッグストア、メガネチェーン、クイックマッサージ、美容院、歯科医、学習塾といった景色になっているところが多くなっています。
