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「ショッピングモールは消滅する」中国経済学者が断言。異業種の日本企業も手本にすべき4つの生存戦略=牧野武文

都市型ショッピングモールは消滅する

このような状況のところに、2020年の年末、経済評論家の呉暁波氏が、50人の経済学者に行った2021年の中国経済に関するアンケートを基にしたライブ配信を行いました。この中で、2021年の中国経済に起こる8つの予測をしました。そのひとつが「ショッピングモールは消滅する。変化の時がきている。サービス消費(体験消費)が物質消費に取って代わる」といもので、大きな話題を呼んだのです。

「ショッピングモールが消滅する」という強い言葉を使ったことにより、さまざまな賛同、反論が起こりました。

呉暁波氏が根拠としているのは、自身が行った80后、90后(30代、40代)10万人に対する消費行動調査です。これは「新中産白書」としてまとめられています。この調査で、外出をする目的を複数回答で尋ねたところ、次のような結果になりました。

1)外食(81%)
2)家族親戚との面会(75%)
3)友人との面会(42%)
4)映画、感激(36%)
5)ジム、運動(33%)
6)SNS撮影(20%)
7)買い物(19%)
8)展覧会(9%)

上記は30代と40代に訪ねた「外出をする理由」。外食や人に会うのが主で、買い物は19%でしかない。買い物は外出のついでにすることになっている。

6位に入っている「SNS撮影」とは、SNSでバズった場所、店などに行き、写真を撮り、SNSに上げる行為です。呉暁波氏も「そのような理由でわざわざ外出するというのは私にはよくわからないけど」と言っていますが、今や、買い物というのはSNS撮影よりも外出の動機になっていないのです。

買い物というのは、ECで買うのが当たり前になっていて、その他の外食や映画などの理由で外出をし、たまたま欲しいものを見つけたらその場で買うぐらいになってしまっています。呉暁波氏はこのような理由で「ショッピングモールは消滅する」と論じました。

ここで言う「ショッピングモール」はあくまでも都市型ショッピングモールで、日本で一般的なアウトレットモールやイオンモールとは性格が異なることにご注意ください。日本のショッピングモールの多くは複合型で、買い物だけでなく食事や映画、SNSの撮影スポットも兼ねています。

一方、都市中心部の再開発で誕生した商業施設は、中国のショッピングモールと性格がよく似ています。新しくオープンした都市型モールには、大勢の人が詰めかけますが、数年前、10年前にオープンした都市型モールで、交通の便があまりよくないところは経営が苦しくなっています。東京お台場のパレットタウンが閉鎖したことは大きなニュースになりました。東京も都心部の再開発が進み、次々と商業施設がオープンしたため、ショッピングモールが過剰になっているのは、中国の都市部と同じ状況です。

しかし、中国の都市型モールは、効果があるかどうかはともかくさまざまな方法で生き延びようとしています。今回は、ショッピングモールが生き延びる4つの方法をご紹介します。

生き延びる方法その1:体験を商品とする

ショッピングモールが生き延びる方法で、最も大胆な方法が、呉暁波氏の言葉「サービス消費(体験消費)が物質消費に取って代わる」をそのまま形にして、体験を商品としてしまう方法です。

その成功例が、北京市朝陽区にある北京SKP(https://skp-beijing.com)です。ここは元々、「新光天地」という名称で、北京ではおそらく最高峰の高級ブランドが集う百貨店でした。台湾の新光三越百貨と中国の北京華聯集団の合弁会社で、台湾の新光三越百貨は三越伊勢丹と新光の合弁会社なので、日本1/4、台湾1/4、中国1/2のような百貨店です。

新光天地は、日本の華やかな頃の百貨店を思い出させてくれる場所でした。1階にはグッチやプラダなどのラグジュアリーブランドが並ぶという高級百貨店で、店内は中国とは思えないほど落ち着いています。店内の内装も日本の百貨店の影響を色濃く受けています。

2015年5月にこれが「北京SKP」と名称変更をし、話題になったのが2019年12月にオープンした別館「SKP-S」です。一言で言えば、入場料無料の現代アート美術館です。「人類が火星に移住した」というコンセプトのアート空間が広がり、SFチックでありながら、家畜としてヒツジが飼われているなど、リアリティのあるアートが並んでいます。このデザインをしたのは、韓国で人気になっているサングラスブランド「Gentle Monster」です。

このSKP-Sが思い切ったのは、このアート空間では商品は販売されていませんし、商品の宣伝もありません。アートだけ無料で楽しんで、そのまま何も買わずに帰ってかまわないのです。そのため、オープンしてしばらくは入場できないほど人が押し寄せました。

ショップはアート空間に隣接した区域にあり、道路を挟んだ向かいには本店に相当する北京SKPがあります。私のような庶民は、アートを楽しんで、ショップゾーンに入るところで、高級感のある雰囲気に気後れをして帰ってしまいます(だって子ども用のTシャツが2000元もしていました)が、北京のお金持ちはそのまま買い物をします。お金持ちの間でも、同じものを買ったとしても、ECで買ったのと北京SKPで買ったのでは違いがあると言うのです。同じ量産品の商品であれば、どこで買うかは問題ではないのですが、「北京SKPで買ったものは人に自慢できる」と思わせているということが、北京SKPが体験を商品化できている証明になります。

アート体験だけでなく、買い物体験も商品化しているのです。また、各ブランドと提携して北京SKPでしか販売しない特別商品も販売され、ますますお金持ちたちは北京SKPで買い物をしたくなります。

北京SKPは、販売額では中国で第1位のショッピングモールになっています。それは新光天地時代から築き上げてきたブランド価値を活かして、大胆なアート体験空間をつくり、体験を商品とすることに成功をしたからです。どのショッピングモールでも真似ができることではありません。

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