中国製ワクチンにこだわって「ゼロコロナ」継続
習近平氏が12月1日、北京で行った欧州連合(EU)のミシェル大統領との会談で、中国全土に広がった新型コロナウイルス規制に対する抗議活動について、「3年に及ぶコロナ流行に人々が不満を募らせていたため」で、「主に学生や10代の若者によるもの」と説明したことが分かった。
ミシェル氏は習氏に対し、欧州では新型コロナのパンデミック(世界的大流行)の初期には、隔離や検査などに重点を置いたが、その後はワクチン接種にシフトしたと説明したという。
習氏は、このミシェル発言をどのような思いで聞いたか。
EUでは、感染初期に隔離や検査などに重点が置いたが、その後はワクチン接種の普及でゼロコロナを乗り切ったのだ。中国も、効果の高いワクチン接種に移行すべきであったが、それを怠ったのである。
中国製ワクチンに拘り、欧米製ワクチン(mRNA)を承認しなかった。まさに、「ワクチン・ナショナリズム」によってゼロコロナを継続し、これが最善の政策であるごとく政治宣伝。習氏の業績にするという破天荒な振る舞いになった。
中国のシノバック製ワクチンは、新型コロナ感染症の発症を予防する有効性が約50%にとどまり、90%を超えるmRNAワクチンより大幅に劣っていたのである。
『BMJ』(英国医師会雑誌)に掲載されたブラジルの70歳を超える人々を対象とした研究によると、シノバック製ワクチンの死亡の予防効果はわずか61%、入院の予防効果は55%にとどまった。欧米のモデルナ製およびファイザー製ワクチンの場合、高齢者の入院予防効果が90%を超えているのと比べ、中国製は大きな違いを見せたのである。『ウォール・ストリート・ジャーナル』(11月30日付)が報じた。
農村では注射針を嫌う
中国の高齢者が、こういう科学的データを把握して中国製ワクチンを忌避したとは考えられない。中国の農村では現実に、医師に診断して貰う機会が少なく、注射針に馴れていないという側面がある。これに代わって、漢方薬という飲み薬を常用しているので、自分の身体に注射を刺すことなど考えられない行為のようだ。儒教では、「身体髪膚(しんたいはっぷ)これを父母に受く、あえて毀傷(きしょう)せざるは孝の始めなり」としている。
つまり、人の身体はすべて父母から恵まれたものであるので、傷つけないようにするのが孝行の始まり、という意味である。儒教国の民族で「タトーゥ」が少ない背景がこれだろう。
こういう文化を持つ中国の高齢者に、ワクチンを接種するのは難しいことかもしれない。それだけに、予防効果の高い欧米製ワクチン接種が望まれるのである。だが、それを阻んだのがなんと習氏の「ワクチン・ナショナリズム」である。
中国は2021年3月、シノバックのワクチン接種を受けた外国人に入国を認める一方、欧米製ワクチンを接種した者の入国は認めないと発表した。中国の積極的なナショナリズムの中心にあるのは、中国の政治システムの優位性を国民に納得させることにあると見られる。中国の指導者たちは、中国が医薬の分野で欧米に負けているのを認めたくないため、欧米製ワクチンを受け入れることはできないと考えたのだ。中国独自で、mRNAワクチン開発に固執したのである。
中国は、早くから米国でmRNAワクチンが開発途上であることを知って、執拗なまでのスパイ活動を行なった。堪りかねた米国は、スパイ活動をしないように警告を出すほどであった。その後、mRNAワクチン技術を手に入れた中国は、製造過程で失敗し予防効果の極めて低いワクチンしか製造できなかったと報じられている。10月の英紙『フィナンシャル・タイムズ』の報道によると、米国モデルナ社が中国へのワクチンの売り込みを目指していた際、中国政府は同社に知的財産の引き渡しを要求し、同社から技術を窃取しようとしたという。
中国はまた、欧米に対してmRNAワクチンを承認するから、中国製ワクチンを承認するように迫った。これも、欧米から拒否されて結局、中国はmRNAワクチンを合法的に中国国内で接種する道を自ら閉ざして、ワクチン・ナショナリズムの落し穴に嵌る愚を演じることになった。