暗転:FDAからの警告と製品品質問題の連鎖
しかし、最高益を記録した2023年3月期以降、オリンパスの業績には陰りが見え始めます。特に深刻なのが、米国市場における問題です。オリンパスの売上高の41%を占めるアメリカにおいて、食品医薬品局(FDA)から度重なる警告やリコールが発令されているのです。
具体的には、2022年には内視鏡の製造と再処理に関する品質システム規制違反で3通の警告レターを受け取り、患者の安全を無視していると批判されました。さらに、2023年10月と2025年1月には気管支ビデオスコープのリコールが発生。不適切な再処理によるデバイス汚染や感染リスクが指摘され、中には死亡事故も発生していました。2025年6月には、一部製品の米国への輸入が禁止される「輸入アラート」まで発令されています。
これらの問題は、売上への直接的な影響は限定的とはいえ、人命に関わる医療機器を扱う企業としての信頼性を大きく揺るがす事態です。背景には、選択と集中や利益を追求するためのコスト削減が、製品品質への軽視に繋がったのではないかという推測がされています。
失われつつある?「ものづくり」の精神
現在のオリンパスの経営資料を見ると、KPI達成やポリシーといった「きれいな言葉」が並ぶ一方で、「技術者魂」や「ものづくり」の精神が見えにくいという懸念が指摘されています。
経営陣の半数以上が外国人であり、その経歴を見ても、製造業の経験者よりも経営専門家や、中にはFDA出身者が名を連ねるなど、規制対応に重点を置いているような印象を受けます。これは、根本的な製品品質の改善よりも、規制をいかにクリアするかという「カンニング」に近いアプローチを取っているのではないかという見方もできます。しかし、本当に製品に問題がある以上、それでは根本的な解決にはなりません。
古くから顕微鏡や内視鏡を開発し、その技術力を積み上げてきた日本企業であるオリンパスが、「ものづくり」という日本の強みを失いつつあるのではないかという危機感が募ります。
外部環境の逆風と競争の激化
製品品質問題に加えて、オリンパスは複数の外部環境の逆風にも晒されています。
- 米中摩擦と関税問題
- 円高傾向
- 中国市場の変質
米国での関税問題により、輸入を控える動きが見られました。
足元の円高は、輸出企業であるオリンパスにとってはマイナス要因です。
中国では「国内企業優遇政策」が鮮明になり、中価格帯以下の製品では実質的にオリンパスが市場から排除されつつあります。中国企業の技術力向上と世界進出への懸念も浮上しています。
さらに、オリンパスの牙城であった内視鏡分野でも、競争が激化しています。
- 富士フイルム
- カールストルツ
画像診断技術に強みを持ち、AIとの相性も良いことからシェアを伸ばしています。
外科用内視鏡分野でオリンパスに次ぐ2位のシェアを持ち、拡大を続けています。
<社員の生の声:停滞する開発力と危機感の欠如>
現場で働く従業員の声も、現在のオリンパスの課題を浮き彫りにしています。
- 意思決定の遅さ
- 新製品開発力の低下
- 「消化器内視鏡シェア」への過信
- 「ものづくり」の軽視
- 上滑りする経営目標
- 経営層の製品への無関心
経営陣や意思決定層の判断が遅く、良い技術や新製品のアイデアが潰されることが多い。
画期的な新製品がリリースされず、既存製品のアップデートに留まっている。
競合他社の攻勢に対する危機感が薄く、このままでは5~10年スパンでシェアが失われる可能性が高いとの懸念。
先端技術や高品質化といった製造業が追求すべき点が疎かになり、他の部分に注力しすぎている。
「グローバル化」や「メドテックカンパニー」といった流行語のような標語が先行し、具体的な戦略や中身が伴っていない。
経営層が自社製品について質問されても答えられない状況が見られる。
これらの声からは、かつての日本の強みであった技術力や「ものづくり」の精神が失われ、競争力が低下している実態が窺えます。