空洞化する経済計画
今年の全人代の注目テーマは、15次五カ年計画(2016~2030年)である。だが、肝心の成長率目標を見送った。それだけ不確定要因が、多すぎるという意味である。中国のトップダウンシステムでは、目標のないことが優先順位のないことを意味する。それは地方当局に対し、経済成長が第一目標でなくなったというメッセージになる。今や国家安全保障や技術的自立といった目標が首位で、経済成長はこれらに次ぐ二次的なものになったのだ。
これは、中国経済において重大な変化である。「量より質」といったきれいごとでは、済まされない深刻な事態と言うべきであろう。計画経済国家が突然、経済成長率目標を掲げない真相は何か。真相は、掲げられなくなったということだ。5年先までの成長率目標を掲げるには、余りにも不確定要因が多すぎるという判断に違いない。中国政府は、ここまで弱気になっている。
すでに、26年経済運営において、消費関連目標の数値が消えている。GDP目標を掲げながら、肝心の個人消費動向の目標値が消えているのだ。これまでの経済運営では、消費成長率、小売売上目標、都市部雇用目標を必ず提示してきた。それが、今年の経済計画から消えてしまった理由は、「消費回復の見込みがまったく立たない」ということであろう。個人消費は、名目GDPの約40%を占めている。需要項目では最大である。この国民生活へ直結した消費が、具体的な目標が立てられないのは、あまりにも実態が悪いのだ。
今年の消費回復見込みを立てられない背景には、次の点が考えられる。
- 不動産価格の下落が、家計の将来不安を招き貯蓄率を急上昇させている
- 消費の下降が、サービス産業不振へ伝播して若者失業率の高止まりを招いている
- 内需の全般的な不振が、企業の投資意欲を低下させる悪循環を引き起している
中国は、計画経済を信奉しているが、各需要項目が連関しているという「初歩的事実」を見落としている。市場経済は、よく知られているごとく「見えざる手」に導かれて相互作動している。一方の計画経済は、「見える手によって」経済を動かしているという錯覚に陥っている。実態は、見えざる手が働いているのだ。こうした「地下水脈」(市場機能)の存在を忘れた振舞が中国へ何をもたらすのか。経済不均衡が、もたらす恐ろしい帰結を無視しているのだ。
中国経済は、「投資主導モデル」から「消費主導モデル」への転換が不可欠と指摘されている。26年経済運営では、肝心の消費関連目標を挙げられないほど混乱しているのだ。これは、政府が「消費を支えられない」と判断していのであろう。つまり、 「消費主導の成長モデルは実現できない」と宣言していると受け取れる。中国の現実は、消費目標を挙げられないほど、厳しい事態へ陥っており、計画経済の「敗戦処理」という局面にある。
今まで、財政赤字をテコに高めの経済成長率を維持してきた。その矛盾によって、これ以上の「債務依存」経済運営に対して、自動的な停止信号が出ているとみるべきだろう。全債務残高がすでに、対GDP比で300%を超えている。今後もさらに増え続ける。高齢者が一般に、身体に無理は効かなくなると同じで、中国経済も対GDP比の全債務残高で「高齢者」入りした。中国経済を救う財政余力が、もはや残っていないとみるべきだろう。
強まる経済の減速感
中国が、こういう全債務残高の限界をあきらかに悟ったのは、25年10月以降とみられる。経済の減速感が出てきたからだ。それ以前は、中国製レアアースを工業製品の0.1%でも含んでいれば、中国のレアアース主権が及ぶので中国へ報告せよと迫ったほどだ。これは、後に1年間延期することになったが、明らかに「調子に乗りすぎ」である。経済の急速な減速感が表面化して、中国政府を冷静にさせたのであろう。