中国の国会に当たる全人代が3月12日に閉幕したが、例年行われてきた首相記者会見は今年も開かれなかった。李強首相の就任以降、一度も会見が行われていない異例の事態である。背景には、減速する中国経済と、政府が直面する深刻な政策矛盾がある。成長率目標の引き下げ、不動産バブル崩壊後の後遺症、債務依存型の経済構造――。さらに、経済よりも国家安全保障や軍事力を優先する政策転換も鮮明になった。全人代の決定事項を手掛かりに、中国経済の実態と今後のリスクを読み解く。(『 勝又壽良の経済時評 勝又壽良の経済時評 』勝又壽良)
プロフィール:勝又壽良(かつまた ひさよし)
元『週刊東洋経済』編集長。静岡県出身。横浜市立大学商学部卒。経済学博士。1961年4月、東洋経済新報社編集局入社。週刊東洋経済編集長、取締役編集局長、主幹を経て退社。東海大学教養学部教授、教養学部長を歴任して独立。
止まらぬ中国経済の悪化
中国で年1回開かれる全人代(国会)は、3月12日閉幕した。閉会に当たり従来、開かれてきた首相の記者会見は今年もなかった。李強首相になってから一度も開かれていないのだ。中国の首相の主な任務分担は経済問題である。それが、すでに3回も会見が開かれないのは、中国経済の実態がいかに悪化しているかを示唆している。
26年の経済成長率目標は、初めて5%を割り「4.5~5%」とされた。25年10~12月期の実質成長率は、前年同期比4.5%である。この低い「発射台」から26年経済が始まるだけに、多くを期待できない環境にある。これまでの中国は、高い成長率によって国民から共産党の信認を得てきた。それだけに、26年経済が4%台へ低下することは、国民の信頼を揺らがせるリスクを抱えるであろう。
問題は、中国が国民から選挙権を奪っていることの代償が、いかに大きいかを示している。GDP世界2位の国家が、国民へ選挙権を与えない異常さを隠すには、無理をしてでも高い経済成長を続けざるを得なかった。民主主義国家であれば、政権交代で難問解決が図られる。中国には、こういう政治制度の弾力性が欠如している。無理に無理を重ねた経済成長の累積結果が、現状の混迷を招いている主因であろう。
ハッキリ言えば、中国はこれまで債務によって経済成長を先取りしてきた。これ以上の成長余力が、財政面から失われていると言って良い。例えば、26年の財政赤字の対名目GDP比率は4%である。だが、この財政赤字を補う一般国債の他に、特別国債などが4.5%も発行される。これらすべての国債を合計すると、対GDP比で8.5%にも膨れ上がる。これだけの公的債務によって、26年は5%未満の経済成長しかできない事態へ直面している。中国経済は、明らかに公的債務増加による「自転車操業」である。
地価下落が根本要因
この緊急事態を止める道は1つしかない。それは、財政赤字を拡大させている不動産バブル崩壊後の地価下落を止めることである。
中国政府は、この抜本策を回避している。「急がば回れ」の喩え通り、ここはいったん立ち止まり、不動産バブル後遺症の後始末(未竣工物件や住宅在庫)の整理を付けることである。しかし、中国政府にはこういう発想法が皆無である。戦場と同じで、「屍を乗り越えて進め」方式に固執している。これが、中国経済の寿命を確実に縮めている。経済と戦場では当然、「進軍方式」が異なるのだ。
中国の改革開放時期に、日本企業は中国へ多く進出した。その際、一様に困惑したのは現場の「整理整頓」ができなかった点だ。日本企業は、まずここから指導したのである。中国社会は歴史的に「農本主義」である。農業では、整理整頓の慣習がないことである。中国政府が、未だに政策の整理整頓ができずに、前のめりの政策を行っている。不動産問題を後回しにして、AI関連へ突進している背景がこれである。
IMF(国際通貨基金)は、2025年の対中年次審査報告書を発表した。今回の報告では文中で、60回以上の「デフレ」という言葉が登場した。IMFは、中国経済の取るべき対策として、次の3点を強調した。
- 産業への補助金4%を2%へ減額
- 社会保障への予算配分の増加
- 不動産バブル崩壊後の未完成住宅完成費用として、3年間でGDP比5%(約1兆ドル)の財政支出が必要
これらは、財政の「整理整頓」にあたる。案の上、中国の26年経済運営は、財政の整理整頓ができず、AI(人工知能)などハイテク部門へ前のめりである。しかも、補助金4%を伴う大盤振る舞いだ。一方では、不動産後遺症は放置されたままである。ここが、大きな財政の「出血要因」になっている。こういう因果関係が、把握できない中国政府の行政能力はどうなっているのか。
全人代において当局は、不動産開発企業がもはや新規住宅需要を望めないので、住宅修繕や仲介業へ転換すべしという「暴論」を吐く始末である。これは、間接的に不動産バブルの後処理で、政府が関与しないという意思表示でもあろう。人間の病気に喩えれば、外科手術はせずに漢方薬でも飲んでいろという扱いになった。自然治癒を期待しているのだ。
不動産バブル崩壊後遺症を放置すれば今後、どういう事態が連鎖反応で起こるかを見定めることが必要である。
未竣工物件や過剰な住宅在庫を放置しておけば、住宅関連産業すべてが、不良債権債務の罠から抜け出せないことになる。膨大な資金が「凍結」されていることと同じ事態である。それ故、「解凍」作業が必要になる。財政資金の投入以外にありえないのだ。IMFが、未完成住宅完成費用として、3年間でGDP比5%(約1兆ドル)の財政支出が必要としている理由がこれだ。
住宅関連の不良債権債務が解凍に向かえば、土地の流動性が部分的に回復することになろう。それは、市場の土地取引を増やして「底入れ感」が出てくるきっかけになろう。この底入れ感が広く共有されるようになれば、地価下落が止まって市民へ安堵感を与えるに違いない。家計資産の7割が不動産とされる中国においては、個人消費が地価底入れ感で回復へ転じる可能性も出る。
政府は、こういう好循環効果を無視して、AI関連へ前のめりである。財政の整理整頓ができないのだ
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