プリント配線板専業メーカーとして自動車用を中心に事業を展開している日本シイエムケイ<6958>は、5月14日に2026年3月期通期決算とともに新中期経営計画を発表した。意欲的な中計が開示され、株価は5月15日に571円を付けた後、6月19日には813円まで上昇している。ただ、自動車の電子化・安全性向上に不可欠な存在としての地位を固めつつある同社は、いまだPBR0.6倍付近かつ配当利回り4%超えと割安感が残っており、上値余地は大きそうだ。短期的には需要低迷や新工場負担による収益変動に晒されているが、中国や欧米での顧客基盤拡大、統合ECU向け需要の伸長、新工場の稼働、半導体や宇宙などの成長分野の拡販によって中長期的な成長は十分に描ける。
まず2026年3月期通期決算を振り返ってみると、売上高1,002.02億円(前期比4.9%増)、営業利益27.88億円(同26.8%減)、親会社株主に帰属する当期純利益が4,026百万円(同6.2%増)で着地した。主力の車載分野では、EV需要の不透明感からHEVへの揺り戻しが見られ、欧州主要顧客向けの販売は減少した一方、日系主要顧客向けの販売は順調に推移した。用途別売上高では車載向けの走行安全系・基板種類別売上高ではビルドアップ配線板が2桁成長となった。売上高は1,000億円台に乗せたものの、利益面では品質管理体制の強化、タイ新工場の本格的な立ち上げ準備、生産体制の再構築など先行投資が要因となり営業減益となった。
ただ、下期には高付加価値製品の増加や諸改善施策の効果により、直近の第4四半期では採算が大きく改善していた。地域別では、日本は車載向け販売が増加し、高付加価値製品の増加や為替環境の改善もあり収益性が改善した。中国は欧州向け販売減少の影響を受けたものの、前年度に実施した生産設備の大判化や中国2工場の経営一体化による生産性向上が進展し、利益面では大きく改善。一方、東南アジアは日系顧客向け車載や家電の販売が好調だったものの、タイ新工場関連の費用増加などにより損失計上となった。
2027年3月期については、売上高1,040億円(前期比3.8%増)、営業利益32億円(同14.8%増)、親会社株主に帰属する当期純利益2,000百万円(同50.3%減)を見込んでいる。売上高は引き続き車載向けを中心に増収を計画し、営業利益はタイ工場の改善効果や高付加価値品の拡大により増益を見込む。一方、前期に投資有価証券売却益を計上した反動などもあり、純利益は減益予想となっている。
合わせて、今回新たに新中期経営計画を発表した。2027年3月期から2029年3月期までの3年間で、2029年3月期に売上高1,200億円、営業利益75億円を目標に掲げた。経営施策としては、車載領域と新領域での成長による販売トップラインの向上、事業体制強化及び生産性向上による原価競争力の引き上げ、人口減少に備えた採用体制強化を掲げる。主力である日系車載向けについては、パワートレイン、走行安全系装置などのターゲット領域を取りこぼし無く確実に受注を獲得しつつ、外資車載顧客も顧客ニーズの適合を図りながら拡大していく想定となる。また、非車載の新領域では、航空宇宙、半導体関連、 医療機器、産業機器ロボティクス、通信等において設計・シミュレーションから基板製造、実装まで一貫した対応を推進していく。
中期経営計画で注目されるのは、成長戦略と資本政策を同時に打ち出した点である。資本コスト・株価を意識した経営の実践に向け、株主・投資家との対話、ガバナンス強化も進める方針である。長期目標として2031年3月期にROE9%超を掲げるとともに、株主還元方針を見直し、新たな株主還元指標としてDOE3%を採用した。これにより配当の予見性向上と株主資本の適正化を図るほか、機動的な自己株取得の実施も検討する。2027年3月期の年間配当は28円を予想しており、前期の20円から増配となる見込みである。
同社のプリント配線板(電子回路基板)は、生活を支えるあらゆる電子機器に搭載されている。プリント配線板の役割は、部品を載せる基礎であり、さらに部品と部品をつないで電気信号を伝えること。人間の体に例えると骨格や神経の役割を担うもので、電気を使う製品の中核をなすキーデバイスとして重要な製品となる。同社は、特にパワートレイン系や走行安全系など高信頼性が求められる分野で存在感を持ち、デンソーをはじめとする国内主要顧客との強固な関係を築いている。40年以上にわたり、車載分野においてビルドアップ配線板や多層基板といった高付加価値製品を積み上げてきた点が同社のアイデンティティであり、今後も車の電子化・高度化の流れに乗りながら事業基盤を強化していく姿勢を明確にしている。また、航空宇宙や半導体検査装置など成長分野への展開も積極的に進めており、収益源の多角化を志向している。1年間のプリント配線板の生産総面積は約400万平方メートル(東京ドーム85個分)、車載向けビルドアップ配線板は世界トップシェアとなる。2026年3月期の売上高における車載用の割合は89%。地域別売上高は国内61.5%、海外38.5%となる。
同社の競争優位性は「部品の信頼性の基盤となる高信頼性基板を提供してきた歴史」にある。車載分野では故障が許されない環境における品質保証が最大の参入障壁となるため、長年培った信頼が新規参入を困難にしている。特にADAS(先進運転支援システム)向けビルドアップ基板や高精度パターン形成といった高難易度技術に強みを持ち、利益率も高い製品群をラインナップしている。さらに中国無錫工場では大判化に対応した生産体制を整え、量産稼働が想定以上に順調に立ち上がったことでコスト競争力が高まっている点も差別化要因である。
市場環境を俯瞰すると、自動車の生産台数は2024年以降CAGR1.5%成長で伸びていくと想定しており、自動車の生産台数以上に車載向けプリント配線板は増加、かつビルドアップ基板はそれ以上に増加していくこととなる。自動車産業は欧州を中心にEV需要が鈍化するなど成長の速度に地域差があるが、アメリカでは自動運転タクシーの商用化が始まり、今後数年で先進国を中心に普及が進む可能性が高い。地域によって環境はまちまちではあるが、電動化・ADAS・自動運転化に伴って車1台あたりのECUが増え、プリント配線板の使用量も大幅に増加することになる。さらにECUを統合する必要性からビルドアップ配線板のニーズが拡大するトレンドは変わらない。同社にとっては統合ECU向けビルドアップ基板需要の拡大が最大の追い風であり、車載電子化の進展とともに「必須の存在」としての地位を固めるチャンスとなる。また、半導体検査装置、航空宇宙、医療、通信インフラなど成長領域での案件も広がりつつあり、いずれかの大口受注が成長を押し上げる可能性を秘めている。プリント配線板のTAMは6兆円規模で、新規顧客の開拓を通じて残り4.5兆円の新規市場への展開が可能となる。AI化の流れは同社に素直にポジティブに働こう。
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