現在、日本の株式市場においてダイキン工業<6367>に対する関心が非常に高まっています。その最大の要因の1つとして挙げられるのが、昨今の欧州における記録的な熱波の到来です。これまで冷房をそれほど必要としなかった地域で甚大な被害が出ている中、「欧州でもいよいよ本格的にエアコンが必要になるのではないか」という期待値が同社に集まっているのです。ダイキンは単なるエアコンメーカーではありません。世界的に圧倒的な強みを持つグローバル企業であり、投資家はその詳細な戦略と将来性を正しく理解しておく必要があります。今回は、欧州市場の変容から、同社の持つ独自の技術戦略、そして次なる成長の柱となるデータセンター事業まで、余すところなく解説していきます。(『 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 』元村浩之)
プロフィール:元村 浩之(もとむら ひろゆき)
つばめ投資顧問アナリスト。1982年、長崎県生まれ。県立宗像高校、長崎大学工学部卒業。大手スポーツ小売企業入社後、店舗運営業務に従事する傍ら、ビジネスブレークスルー(BBT)大学・大学院にて企業分析スキルを習得。2022年につばめ投資顧問に入社。長期投資を通じて顧客の幸せに資するべく、経済動向、個別銘柄分析、運営サポート業務を行っている。
冷房を必要としなかった地域で起きていること
欧州という地域は、本来「夏は涼しく冬は寒い」という気候が一般的でした。
以前は夏場でも25度から30度に届かない日が多く、エアコン、特に冷房機能はそれほど普及していなかったのです。
しかし、近年の気候変動により状況は一変しました。
次から次へと40度を超える地域が現れ、実際にかなりの数の死者が出てしまうという深刻な事態に陥っています。
こうした状況を受け、欧州でも「やはり冷房が必要なのではないか」という議論が活発に行われるようになっています。
命に関わる問題として、これまでの「エアコン導入は環境負荷が高いから数週間の熱波は我慢すればいい」という論調から、インフラとしての冷房の重要性が再認識される転換点を迎えているのです。
足元の業績と株価推移
ダイキンの株価推移を確認すると、2023年に一旦ピークをつけた後、2026年の初頭にかけてずるずると下落する局面が続いていました。

ダイキン工業<6367> 週足(SBI証券提供)
しかし足元では、欧州での熱波による被害というトピックに反応するように、株価は反発モードに入っています。
業績面に目を向けると、地域別の売上は全地域で好調に伸びているように見えます。
しかし、ここで投資家が注意すべきなのは、その伸びの内実です。
欧州における実際の販売台数は、実は足元でむしろ減少傾向にあります。
売上高が増えているように見えるのは、為替の影響やインフレに伴う販売価格の上昇が主因であり、販売実態そのものは踊り場を迎えているという冷静な分析が必要です。
ガス暖房からヒートポンプへ
なぜ欧州で販売台数が伸び悩んでいたのか。
それは欧州特有の暖房文化と、ロシア・ウクライナ戦争による影響が複雑に絡み合っているからです。
元々、欧州は冷房よりも暖房が重視される地域で、ロシアから安く入ってくるガスを使った暖房がメインでした。
戦争の勃発によりガスの調達が難しくなり、価格が高騰した時期には、ダイキンが提供するような省エネ性能の高い電気式エアコン(ヒートポンプ)への需要が一時的に急増しました。
しかし、その後ガスの価格が落ち着き、欧州の景況感も悪化したことで、各国政府がエアコン購入への補助金を削減するなどの動きが出ました。
その結果、目先は安いガス暖房で対応すればいいという流れになり、足元の販売台数の停滞を招いたのです。
しかし、現在の殺人的な暑さは、この流れを再び冷暖房両用のエアコン需要へと押し戻す可能性もあり、ダイキンの今後の戦略が注目されます。
ダイキンの強みその1:圧倒的なグローバルサプライチェーンと「市場最寄生産」
ダイキンが世界的に強い理由は、その強固なグローバルサプライチェーンにあります。
エアコンという製品は、実はグローバル競争が非常に難しい製品です。
地域ごとに気候、建築様式、さらには「どのように冷やしたいか」という嗜好性が全く異なるため、1つの同じ製品を世界中で売るという戦略が通用しないのです。
例えば、日本は個別の部屋に設置する方式が一般的ですが、米国ではダクト式で建物全体を冷やす方式が主流です。
こうしたニーズのばらつきに対し、ダイキンは世界170カ国以上で展開し、製造拠点だけでも100カ所以上を擁しています。
彼らは「需要地の近くで作る」という「市場最寄生産」を徹底しており、現地のニーズを即座に拾い上げて製品に反映させる体制を整えています。
製造・販売だけでなく、据え付けやアフターメンテナンスまでを自社で行うこの現地化の徹底ぶりこそが、他社の追随を許さないダイキンの凄みです。
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